「あなたって、仲間はいなさそうね。奥さんとか彼女とかいないの?」

 村への道々で、同行の女が俺にたずねた。背中には三本の剣を背負って、奪いかき集めた上着四枚を丸めてロープで担ぎ、腰の袋には干し肉と奪った金属貨幣。「金になる」と悟ったとたんにやる気を出してきやがって。

「いないよ。そのうちゴブリンか人間の女でも二三人か五六人くらい洞窟に幽閉してやろうかとか、思ったりはするんだけど。たぶん餌やりと世話だけで地獄労働になりそうだからな。ゴブリンの子供できても困る気もするので、見合わせている」

「うっわ! 発想が最低。ひそか、さりげなく、ものすごく酷いことをさらっと言ってない?」

「だって、ゴブリンだぜ? そのための、そういう悪いことや無法者アウトローをエンジョイするためのゴブリン転生だぜ? 真面目とか誠実とかの美徳や固定観念とは手を切って、ヒャッハーするために人間辞めてゴブリンになったんだぜ」

「何か、辛いことでもあった?」

 ジトッ目をする女。

「なんとなくウンザリしていたことは覚えているが、転生前の記憶はかなり曖昧なんだ」

「ふーん」

 てくてく歩きながら、どうにか会話が成り立っているようだった。
 俺はロマンを口にした。

「憧れている人がいるんだよ」

「えっ? 好きな人?」

 女はすぐこれだ。発想が。
 俺は人さし指を振ってチッチと舌を鳴らす。

「違うよ。伝説とか、創作の男」

「ホモなの?」

 女はにわかに目を輝かせ、興味津々で面白おかしい顔になりやがる。

「違うよ。人間的に、「こんなふうになりたい」とか「あんなふうだったら良かった」っての」

「ほほう? どんななの?」

「漫画のキャラクターなんだよ。英雄冒険伝説みたいな」

「あー、男が好きなやつ。俺は強いぞ、ヒーローで英雄だぞ、みたいな」

「そうそう! その脇役で、囚人部隊の黒犬鬼畜団を率いるワイヤルド大先生。行く先々で鬼畜囚人たちを指揮して問答無用の殺戮や略奪・強姦を繰り返し、敵側だろうと味方だろうとお構いなし! とにかくすがすがしいほどの、筋金入りの人非人なんだよ。戦争に勝っていて功労者にも関わらず「我が方の恥部」と貴族や司令部からドン引きされて、最後は主人公と戦って死亡。怪物に変身して大活躍して、とっくに悪魔に魂売ってた」

 熱弁を振るう俺に、女はヒクヒクと頬を引き攣らせて、返答と言葉に窮しているようだった。



 着いた村で、事情説明がてらにどうにかご挨拶と面識ができて、商談をうまくとりまとまったことでは感謝すべきなのだろう。

「おい、うまくいったぞ。サンキュー、女」

「名前じゃなく、女とか言う?」

「あれ、お前の名前って聞いてたっけ?」

 別れ際に、もう一回蹴られた。