「あなたは、いったい何なの?」

 天幕から出てきた女が問いかけた。こっちが安全な相手(?)とわかったとたんにこれだ。

「見てのとおりのゴブリンだよ。狩猟で盗賊狩りしている。お前のことは、襲うかどうか考え中」

 やや間があった。

「あなたって転生者でしょ?」

「あ、わかる?」

「なんとなく思っただけ。そういう人ってたまにいるそうだけど、実物見たのは初めて」

「俺も、他の転生者なんか見かけたことはない」

 そこでいったん会話が途切れ、やや間を置いて女が言った。

「わたし、※※の町にいるんだけど。そこまで帰るのに、いっしょに来て護衛してくれない? お礼はするから」

「※※の村まで、寄り合い馬車が来てただろ? そこまでで良かったらな」

「うーん、お金ないし」

「これで。今さっきの拾いものだが」

 俺がさっき獲得した銀貨を与えると、女はおそるおそる受けとった。

「いいの? ありがとう」

「とりあえず乳揉んだり、スカートに頭突っ込んでいい?」

「え? 嫌よ。最低!」

 困ったみたいに顔をしかめる女に、俺はボソッと横向いて呟いた。

「ケチ。犯して殺しておけば良かった」

 女は足蹴にして蹴飛ばしてくる(こちとら食事中の二杯目で座っている)。こちらの出方をみる様子見なのか、遠慮や感謝で手加減しているのか、さほど強くはない。
 こいつら(女、もとい人間全般)って安全と思うと、とたんに大きく出やがるな(怖い相手には戦々恐々としているわけだが)。だって人間だもの!

「それで、※※村はあっちの方だが。そんなには距離ないけど、一緒に行くか?」

「うーん」

 女は少し思案顔。道に迷ったり、他の盗賊などに襲われるリスクと、俺と同行した場合の危険をどっちがましか考えているらしい。

「おい」

 俺は鹵獲品の短剣を渡してやった。

「もう少し、漁ってくる」

 草原に分け入って、さっき倒した盗賊からも剣を奪ってくる。重いという難点はあるけれども、売れる。そのまま商品でも、ドワーフの鍛冶屋に材料としても。金属は戦略物資だし、こんな未発達な世界では精錬の手間からして高価だ。

「村まで持っていくのと、売りさばく口利きくらいしてくれ。こっちとしても、そろそろ人間と付き合いが欲しいとは思っていた」

「これまでは一人で?」

「基本は一人だが、知り合いのドワーフの鍛冶屋とかとは取引していた」

「ふーん」

「そういえば町の闘技場で見世物で戦おうかと思っているんだが、俺一人では交渉もしにくい。そういうのでも、人間と付き合いあった方が便利だろうからな」