(これで二匹)

 ゴブリンの俺が盗賊とはいえ人間に「一匹二匹」と数えるのは妙ではあるが、客観的に考えて自分の方がよっぽど高等動物である。
 ばったり倒れた盗賊に、三人目が近寄ってくる。

(アホだな!)

 まずはクナイ型(短剣型)手裏剣二発。人間を傷つけたり殺すための道具だよ、これは。
 おお、刺さった刺さった!
 痛そうにしてパニックになっているところに襲いかかり、ナイフで喉を切ってやる。サヨウナラ。
 こういう身軽さや俊敏さも、ゴブリンの強みではある。感覚も聴覚・嗅覚は鋭いが、静止視力は人間並みで、戦いでの本当の強みは動体視力だ。

(あと三人、いや二人と半分か。もっといるかもしれないが)

 攻撃開始する前にしばらく観察していたところでは五人のはずだ。無傷は二人。
 投石した一人は負傷はしているが生きている。もし投槍機を持っていれば初撃で殺せただろうが(棒の先に引っかけて遠心力で投げる)、複数の投げ槍は持ち運びにかさばる辛さがある。
 ただしテントの中で睡眠している奴がいないとも限らない。それでも、この騒ぎで出てこないところを見れば、たぶんあと三人で、草原の海にに入るのを躊躇している。
 素早く倒した二人から武器を回収し、ポケットをさっさと漁ったり(銀貨二枚)、金目のブレスレットも奪ってウエストポーチに入れる。とにかくさっさと殺害現場を離れつつ、警戒して生存する敵たちの様子をうかがう。慎重になって、三人で固まってこちらの草原を見ている。

(さて、どうする?)

 戦果はしょっぱいが手間にはひとまず割が合うだろう(盗賊からしたら、そんな安い利益のために二人殺された勘定なのだけれども)。
 金貨・銀貨や貴金属・宝石などは知り合いのドワーフなどに買い手や物々交換があるのだ(小さく高価値なので保管が楽で、時間が経っても食べ物のように腐らない利点もある)。できれば服なども奪いたかったが、そこまでの時間の余裕もないし、かさばったり目立つ物を持っていては隠れるにも戦闘するにも不利になるのが悩ましい。

(訓練も兼ねて、二人と半分と正面からやるか?)

 それも悪くない。
 この世界ではゴブリンというのは、人間の進化過程での袋小路の種族なのだという。身体能力やサバイバル性能が最高である(体が小さいのはエネルギー効率と生存能力を重視している。免疫も最強で、実は寿命の限界がない)。かわりに知能が発達しなかった。それで現在の生物学的地位に落ち着いているわけだが、鳥類などでも「頭の悪い」品種は環境変化で絶滅している(知能の高低は大きなポイントなのだ)。
 しかし俺は知力は人間だ。
 だったら、その野性の身体能力を人間の知力で存分に活用したらどうなるか。

(いっちょ、やってやるか!)

 まずは石をもう一発投げる。
 今度は安易に突っ込んでこなかったが、こちらを見ている。見えていないだろう。
 投石地点に気をとられた隙に接近していく。草ができるだけ揺れないように気をつけて、丈の低い草を道替わりに踏んでいく。
 最初に襲ったのは、負傷者だ。
 投げナイフで鼻の折れた顔面を貫く。目玉の位置に刺さって、深さからして脳に達しただろう。本当は喉を切って確実かつ完全にとどめを刺しておきたかったが、今は無傷の二人が優先だ。