「学生の頃、一番頑張ったことはなんですか。なるべく詳細に、お聞かせください」
「え、面接官?」
「ちがうわ!」

 彼がビールを勢いよくあおったかと思えば、ジョッキの底がテーブルに着地したと同時に、いきなり面接が始まった
 と、思ったらどうやらそうじゃないらしい
 やけに真剣な顔かつ敬語で話し始めたから、渾身のものまねでも始めたのかと思った
 ぐっと、ジョッキを握る手に力がこもっている

「俺たちはまだ付き合いが浅いけど、深山はそれなりに頑張って生きてきたんだろうなって、なんとなく想像つくよ」
「どうして?」
「一言で言うなら、どんなときでも背中が死んでない」

 背中が死んでない
 どういう意味で言っているのか、すぐに理解ができない
 いや、すぐじゃなくても、よくよく考えてみてもわからない。言葉どおりに解釈しようと頑張ってもわからない
 いつもの調子なら軽口を返すところ、無言で考え込み始めた私
 それを見た彼は、笑いながら『ごめん』を2回繰り返した

「例えば午後の14時くらい、みんなが眠くなる時間帯にさ。たばこ休憩で席を空ける人たちが増えたり、会議という名のお茶休憩が始まったりするじゃん?」
「そうね……あれは勘弁してほしい」

 お昼にお腹が満たされて、1時間ほど働くと眠たくなるのが人間という生き物。気持ちはとてもわかる
 ただ、休憩と称して上司が軒並みいなくなるから、未だ新人に属している私は困ってしまう。社会人の基本、報連相ができなくなる……つまりは、仕事が止まってしまうこともしばしば。正直、つらい
 ……でも、それとさっきの話はなにが関係しているって言うんだろう?
 相槌を打ちながら、言葉の続きを待つ

「深山だけ、背筋が伸びたままなんだ」
「え……?」
「みんな仕事がだるくなって、午後には背中が丸まっていく。疲れが目に見えてくる。でも、深山はちょっと一息つくためのコーヒーを飲むときだって、気を緩ませない」
「……そうかな」
「それに、先輩に相談をしに行ってたばこの後回しにされたとき。他の部署の人間に、無茶な要求をされたとき。落ち込むようなことがあっても背中が折れない、気持ちが折れていないように見える」

 自分でも気づかなかった自分の日常
 言われて思い返してみると、確かにそのとおりだ
 内心はダメージを受けていて『もう少し後に行けばよかったかも』とか『説明の仕方が悪かったかな』とか反省をしながら、『次に活かせば大丈夫。この失敗は無駄じゃない』と開き直ってもいた
 高校時代の恩師が、事あるごとに私たちへ伝えていた言葉
 その言葉が私にしみついていて……ずっと私の心を守ってくれていた
 そして、それに気づいてくれている人がいたという事実
 感謝と驚きで、心臓がドクドクと音を立てている

「……まさか、そんなところを見られていたなんて思ってなかった」
「ストーカーっぽくてきもい?」
「いや、名探偵?」
「営業の観察眼、なめんな」
「さすがだね」
「急に素直じゃん」
「いつもすごいと思ってるよ、ほんと」