4月最初の金曜深夜。新道を歩いている人がいる。繁華街・胡文(こぶん)町から美鳥方面に向かって。
 男と女の2人組。男は暗い色のスーツで、女もオフィスカジュアルなブラウスにスカート。
 大好きな先輩と帰る夜道なら、高鳴る鼓動が聞こえていないか、気になるだろう。気になっているあのコと帰る夜道なら、隙があれば出ていきそうな手を抑えるのに必死だろう。
 男が半歩前を歩いている。女は決してその距離を縮めようとしない。その半歩をキープしている。
 中島通り2番町のバス停で、2人は手を振って別れた。
 男はそのまま右に曲がり、地面を見つめながら、時に「ぐー」と腹の音を響かせながら、進んでいる。
 女は…。いや、女もその後ろを歩いている。男が「ぐー」といいながら歩いている道を今度は50mくらいの充分な距離をもって。

 「キャー!」

 女が声を上げた。
 男が振り返った。
 その顔は眉にシワがよっていた。そしてどんどん眉頭がつりあがっていった。

 「は?」