働き始めてから数週間


「「「乾杯〜!!」」」


楽しそうな声で賑わう居酒屋


僕達、新入社員の歓迎会には沢山の人が挨拶に来ていた。


正直、もう関わることなさそうな人達との挨拶だけで疲弊する。


「はじめまして!私、企画・開発部の神宮 咲那と申します。」


そうして疲弊していた僕の元へ咲那が挨拶に来た。


これが僕と咲那の出会いだった。


「やぁ!結月くん、飲んでるかね?」


「はい!とっても美味しいです!」


「そうかそうか!それは良かった。ところで、神宮くんとも話したかね?」


「はい!」


「君と神宮で共同プロジェクトをするのはどうかね?とてもいい提案だとは思わないかね?」


「ご提案は嬉しいのですが…部署も違いますし…僕、新人ですよ?」


「それは関係ないよ、結月くん」


「僕はね、新しいことに挑戦したいんだ」


「課長…」


「それに!いつまでも凝り固まった考え方で回しても、同じようなモノしか作れないからね!フレッシュな風を結月君には吹き込んでもらいたいんだよ。じゃ、こっちで色々根回しはしておくから」


さ!いってこいと僕の背中を強く2度叩くと課長は去って行った。


「はぁ…」


喫煙所に煙草を吸って居ると、神宮さんの溜め息が聞こえてくる。


気まずく思ったのか何事も無かったかのように先輩は煙草を吸い続ける。



互いに会話もないまま、僕達の煙草を吸って息を吐く音だけが辺りに響く。


暫くして、満足した僕は席を立とうとするが、同時に神宮さんも立ち上がり、歩き出した。


歓迎会も終わり、二次会に向かう者、そのまま帰宅する者と別れ散り散りにそれぞれの道へと行く。


僕はそのまま帰宅するコースを選びたかった。


だが…


「お前達新人が主役の会なのに新人のお前が帰るのかあ?どれだけ幹事の俺が苦労したと思ってるんだ!」


上司が僕達の為に開いてくれた宴なんだからここで帰るのは申し訳ない、それは僕も思う。


だが、その行為を強要するのもどうなのだろう。


僕が上司に絡まれて困った顔をしているのをみんなが見て、笑って、野次を飛ばして居る。


正直、もうしんどかった。


でも…


「すみません!ちょっと結月さんに話があって暫くお借りします」


上司から庇うように僕を抱き寄せた神宮先輩はとても頼もしくて、温かくて…力が抜けて泣きそうになる。


「大丈夫か?」


神宮先輩はハンカチを僕に手渡し、僕が落ち着くまでずっとそばに居てくれた。


「ありがとうございました…」


「いいの、いいの。行こうか、俺も二次会参加するから」