名前を奪われた少女は、妖神と共に誓いを抱いて歩む。ー名喪ノ帳帖ー

「碧き」と言っていた御告げの内容からして、桔梗と婚儀を交わす妖神が、碧嶺ではないかと勘ぐってしまう。あの桔梗が婚姻を結ばなければならないなど、数奇な天の思し召しに、蓮花は理解がついていかなかった。

「わたくしを『嫁き遅れ』だなんて嘲笑うやつらを見返してやるには、この道しかないわ」

この御告げに、桔梗は、一縷の望みを見出した。王族としての誇りを胸に、霊神との婚儀に前向きな姿勢を見せる桔梗。彼女は、この婚儀によって、再び、人々の羨望の眼差しを取り戻せると信じていた。

国中の者が御告げを聞いたのだから、公表せざるをえなかった皇帝と王妃は、御告げにあった通り、皇女と妖神の婚儀を執り行う準備を進めていると公表した。王城と街は、にわかに活気づき、儀式の準備に追われる。

「霊神との婚儀について、すべて調べ上げよ」

皇帝は、国の老学者に命を下した。老学者は、この命を受け、国中を駆けずり回り、霊神にまつわる資料をかき集めた。埃を被った古い書物、焼け焦げた絵巻物、石版に刻まれた古文書……。慎重に広げられた絵巻物には、およそ数百年から数千年に一度、4体の霊神のいずれかと、その霊神が属する国の王族の娘、ないし息子が、婚儀を交わすという、古の慣習が記されていた。