名前を奪われた少女は、妖神と共に誓いを抱いて歩む。ー名喪ノ帳帖ー

母から従妹のことは皇女と呼ぶようにと何度も何度も、念を押されていたことを思い出し、すぐさま深く頭を下げて謝罪した。

「いいのよ、あの辺鄙な田舎で育ったのだもの。礼儀がなくて当然でしょう?それに、その子は私の従姉ですもの。今のところは許してさしあげますわ」

そう言いながら、桔梗は蓮花を見下し、蔑むような笑みを浮かべた。
従妹の桔梗のほうが年下ではあるものの蓮花の身長は同じ年ごろの子供よりも小柄だったのだろう。
桔梗のほうが少し目線が高かった。
蓮花が見上げる桔梗の笑みには、華やかさではなく、ただただ醜い悪意が滲み出ていたが、両親に愛情深く優しさに包まれて育った蓮花はその悪意に気づくことはなかった。

「付いてきなさい」

その言葉に、蓮花は従妹の後を追った。

移動した先は、全部で4か所。教材と呼ばれる書物や巻物が所狭しと並べられた学間、優雅な音色が響く舞間、そして、身のこなしや立ち居振る舞いを学ぶ所作間、最後に文蔵庫と呼ばれる教材以外にも本がたくさん並ぶ場所だった。

桔梗は、自らが皇女として過ごす一日を、蓮花にも同じように過ごさせた。