名前を奪われた少女は、妖神と共に誓いを抱いて歩む。ー名喪ノ帳帖ー

その翼は、炎を揺らし、熱を放っていた。

「おい、蓮花。あいつには気をつけたほうがいい」

久惔の声は、いつになく真剣だった。

「気をつける?って、何を?」

蓮花は、彼の言葉に、戸惑いを隠せない。

「何と言われると難しいが、とにかく怪しい。今までの島人ともずいぶん違う。名喪人にしては小綺麗だし、落ち着きようがある。俺の声なんて聞こえた者が蓮花以外いなかったせいかもしれねぇが……。人の案内役が同舟したこともねぇから、違和感があったとしか言えない。とにもかくにも、気をつけろよ。それと、このことを必ず、碧嶺に伝えろ」

久惔は、蓮花の腕を掴んでいた翼を離すと、それだけ言い残し、どこかへ飛んでいった。

蓮花自身も違和感を持っていた相手に、久惔からも注意した方がいいと言われるとなると、いよいよ危ないのでは、と思った。蓮花は今回が初めての案内だったけれど、久惔はこれまで何人もの人を、各島に案内しているはずの妖神だ。そんな彼からの忠告を、安易に流すわけにはいかない。何かあってからでは遅いため、細心の注意を払わなければと思った蓮花だった。

碧嶺から、島へ案内された男性は、どうやら問題もなく、他の島人と馴染めたように蓮花は思っていた。