「霜霞国側からは、こちらを認識できない。しかし、何が起こっても不思議ではないから、これをつけていくといい」
たしかに放られるとき、暗闇だったことを思い出す。
碧嶺は、蓮花に、手のひらサイズの小さな珠を手渡した。その珠は、まるで深い海の色を閉じ込めたかのように、深い深い、青だった。
「これは?」
蓮花は、その珠をまじまじと見つめた。
「蓮花の姿や声を変える道具だよ。久惔と僕のみが、蓮花の秘密を知っているからね。秘匿するに越したことはない。黛黯や剛禺にも、まだ伝えられていないから」
黛黯や剛禺。聞き慣れないその名に、蓮花は首を傾げた。
「どうか、このとおりお願いだ」
碧嶺が、その美しい顔を伏せ、頭を下げるものだから、蓮花は慌ててその珠を受け取った。
「今渡したものは、ただの色付きの珠だが、願えばどんな形にもなる。二つで一つになっているのだが、僕が片方は預かっている。蓮花に何かあると、僕の持つこの蓮花と同じ名の花の耳飾りが、知らせてくれるようにしているよ」
碧嶺は、そう言って、自身の耳元で揺れる、白い蓮の花をかたどった耳飾りを指差した。
「わぁ、きれい!」
蓮花は、自身と同じ名の花が碧嶺の耳元で揺れているものなのだと初めて目にする。そしてその神聖な輝きを放つ耳飾りを、ただ見つめた。蓮花は、碧嶺と同じ耳飾りにしようと、その珠に願った。



