名前を奪われた少女は、妖神と共に誓いを抱いて歩む。ー名喪ノ帳帖ー

そう思った蓮花は、急いで碧嶺の部屋へと向かった。

「碧嶺さ──?!すみません!!」

扉を叩きもせず、碧嶺の部屋に入ってしまった蓮花は、そこで見てしまった碧嶺の姿に、慌てて詫び、扉をすぐに閉めた。心臓がドクリ、と大きな音を立てる。今の状況を、もし雲覇に見られていたら……と想像しようとして、蓮花は、すぐにその思考を止めた。なぜなら、想像できるのは、恐ろしい結末だけだったからだ。

扉の隙間から漏れる光に照らされていた碧嶺。天井に向かってなびいていた御髪は、普段の漆黒ではなく、白緑色に輝いていた。彼の瞳は、赫色と、あの日の男の子と同じ、緑青色に輝き、緑青色だったはずの角は、墨色に変わっていた。

蓮花は、すぐに扉を閉めたはずなのに、ありありと、その姿を思い浮かべることができてしまう。首を横に振り、見た光景を忘れようと努めたが、どうしても気になってしまう。彼の目の前にあった、あの透明な本のようなものは何だろうか。どうして、姿がいつもと違っていたのだろうか。

透明な本と言っても、その形の奥にある部屋の本棚の背表紙が、まるでゆらめく水面のように揺らめいていたから、そう思えただけだった。

蓮花は、碧嶺の部屋から、仮に与えてもらっている自分の部屋に戻ろうとしていた。