名前を奪われた少女は、妖神と共に誓いを抱いて歩む。ー名喪ノ帳帖ー

そして蓮花は驚きで危うく声がのどまで出かかった。蓮花が驚いたのも無理はない。なぜなら、そこにいたのは、かつて蓮花に、両親以外で、蓮花の本当の名前を呼んで可愛がってくれた、あの人だったからだ。霜霞国の王家──霞守家に使用人として仕えていた、あの優しい女性。

彼女の特徴でもあった、編んで束ねていた、艶やかな栗色の長い髪は、今はとても短い。蓮花が13歳の頃、彼女から直接、その理由を聞く機会はなかった。代わりに、他の使用人たちの間で、「名喪人によくしてあげていたせいだ」と噂されていたことで、蓮花は知ることとなった。自身と仲良くしていたせいで、誰かを不幸にさせていたという事実に、ひどく胸が痛んだことを、今でもはっきりと覚えている。

王家の使用人として仕えることができるのは、とても名誉なことである。しかし、解雇となった者への風当たりは厳しいらしい。彼女がどこかで幸せでいてくれたらいいと、蓮花は思っていた。

霜霞国の中ではなく、彼女が、この翠嶺島にいたとは知らなかった。だが、翠嶺島にいる彼女は、以前よりも、ずっと幸せそうに見える。その優しい笑顔は、蓮花の記憶の中の彼女と、寸分違わなかった。

物思いに耽っていたため、蓮花は、不思議そうに自分を見つめる二人と雲人形に気づかなかった。

「あっ、すみません。貴女が私の知人にとてもよく似ていたもので……。渓科 蓮花です」

蓮花は、挨拶を交わすために、手を差し出した。