名前を奪われた少女は、妖神と共に誓いを抱いて歩む。ー名喪ノ帳帖ー


蓮花は、困惑しながらも、この優しさにどう応えればいいのか分からず、言葉を濁した。

「私、蒼翼と申します。事前に名乗れておらず、大変申し訳ございません」

「あ、蒼翼さん、いいんですよ?!私が眠りこけてたせいなので!私が悪いので!」

そう否定していると、部屋の扉がノックされた。蒼翼さんが確認に行き、蓮花を呼んだ。

「蓮花さま、移動手段の準備が整ったようですので、雲覇と共にご移動願います」

紹介された雲覇さんも、背は蓮花より高いのに、やはり性別がどちらか分からなかった。雲覇さんは、蒼翼さんと違い、一言も話してくれない。蓮花は、無言で歩き続ける雲覇さんの後ろを、ただひたすらについていった。

雲覇さんが立ち止まったのは、宙に浮く、白い塊の前だった。それは、まるで空に浮かぶ雲のようだった。蓮花は、おそるおそる手を伸ばして触れてみた。すると、先ほどまで寝ていた寝具のような、ふかふかとした、柔らかな触り心地がした。

(これに乗ればいいのかな?)

蓮花は、意を決してその雲に乗った。雲は、蓮花の重さを感じさせないまま、少し宙に浮き、天閣の外へと、ゆっくりと動き出した。雲の上から見る景色は、まるで絵巻物の中に入り込んだかのようだ。怖くて、蓮花は思わず目を閉じてしまっていた。