名前を奪われた少女は、妖神と共に誓いを抱いて歩む。ー名喪ノ帳帖ー

「柔らかい?なにこれ」

蓮花の指先を押し返すような、弾力性のある壁のようなものが、そこにはあった。見えない壁。それが幻衣の正体なのだろう。

「やはり、入れない……か」

碧嶺は、寂しそうに呟いた。

「霊誓紋を刻んでもいいだろうか?」

蓮花は、その言葉に、胸の奴紋を、そっと押さえた。

「私には、既に紋が刻まれているのですが、新たな紋を刻むのは可能なのでしょうか?」

蓮花の胸元には、蓮花の血と、従妹の桔梗の血を混ぜて煮詰めたもので作られた、忌々しい奴紋が刻まれている。これは、支配者側の支配力が強まり、刻まれた側は、紋章が消えずに苦痛が宿るとされる禁呪。蓮花は、久惔の炎でも治らなかったこの奴紋を、どうすればいいのか分からなかった。

「解呪しよう」

碧嶺の言葉に、蓮花は驚いた。奴紋を見せてくれということだったので、蓮花は、襟を引っ張り、奴紋が刻まれている胸元を碧嶺へ見せた。久惔の炎でも治らなかった奴紋。

「滅んだとされる禁呪を使うものが、今もなおいるとはな」

碧嶺は、その奴紋を見て、呆れたように呟いた。そして、蓮花の額に、そっと指先をあて、目を閉じた。蓮花には、何を言っているのかさっぱり聞き取れなかったが、それが解呪の詞であろうということは伺えた。