名前を奪われた少女は、妖神と共に誓いを抱いて歩む。ー名喪ノ帳帖ー

その声は、舟で会話をしていた、あの久惔の声だった。男の周りには、微かに火の粉が舞い、その熱気が、蓮花の頬を温める。男は、蓮花に近づき、炎を帯びた翼の先で、そっと蓮花の身体に触れた。

見た目こそ人のようだが、脇から手首にかけて、まるで腕のように、羽が生えていた。その羽の炎が、蓮花に移った。

(熱くない?)

蓮花は、驚いて目を丸くした。炎は、熱くもなければ、焦げ付くこともない。むしろ、温かく、蓮花にできていた傷という傷が、癒えていくのが分かった。背中に鞭打たれた痛み、引きずられた時にできた傷、頬の平手打ちの痕……そのすべてが、まるで魔法のように消えていく。おまけに、手足についていた重い枷も、音を立てて外れた。蓮花は、久しぶりに、手足の自由がきくようになった。

蓮花は、驚きつつ、舟を降りた。地面に足をつけると、そこには草が生えていて、土の温かい匂いがした。

「名喪人は、霜霞国から追いやられた後、あの舟に乗って4つの島のどこかに着く。凍泉島、燈緋島、虎牙島、翠嶺島のどれかにな。だいたいは、出身国の妖神が住まう島に案内している。霜霞のやつらは、名喪人がどうなったかを知らないからな」

久惔は、蓮花が疑問を口にする前に、全てを答えてくれた。

(妖神に、島?)

蓮花は、その聞き慣れない言葉に、首を傾げた。