名前を奪われた少女は、妖神と共に誓いを抱いて歩む。ー名喪ノ帳帖ー

蓮花の名を呼んでくれた4人目の存在が、少し嬉しくて、無視するのも申し訳ないと思った蓮花は、話を続けた。

霞守家に来る前までは、両親が呼んでくれていた名。緑青色に瞳が変わったように見えた、あの王城の庭の道案内をしてくれた見知らぬ男の子と、この光る玉が、蓮花の名を呼んでくれた。

しかし、蓮花は、はっとして口を噤んだ。桔梗はそばにいないのに、喋れば恐ろしい折檻が待っていることを、身体が覚えていたからだ。その恐怖が、蓮花の口を固く閉ざさせた。

「俺は、久惔。クは久しい、タンは炎の左に忄をつけるのさ。久惔と呼んでくれればいい。それに、安心しな。あいつらはここにはいない。この舟は、名喪人が暮らしている場所にいく」

蓮花の心に、久惔の言葉が、優しく、そして、確かな光を灯す。

「もうしばらく進む」

そう言ったっきり、光る玉──もとい、久惔は、蓮花に何も話さなくなった。蓮花は、ただ、久惔の声に安堵し、暗闇の中、舟に身を委ねた。

舟に揺られていた蓮花は、その心地よい揺れに、いつしか眠りについていた。冷たい風も、凍えるような寂しさも忘れ、蓮花は、夢の中で両親と再会していた。

次に目を覚ましたのは、舟が岸に停まった、カタン、という小さな物音だった。

「やっと着いたな?……チッ。ひでぇ扱いなこって」

岸辺に立つ人影──いや、炎に包まれた鳥人のような姿をした男が話す。