名前を奪われた少女は、妖神と共に誓いを抱いて歩む。ー名喪ノ帳帖ー

桔梗は、この状況を楽しんでいるかのように、不敵な笑みを貼り付けたまま、動かない。

「彼女には、婚約破棄を言い渡す!名が浮かんでこないとは、名喪人である、何よりもの証!人を欺くな!この外道が!!」

男性は、まるでこれまで優しかった自分が嘘だったかのように、怒りの声を荒げた。彼は、祈父に背を向け、蓮花を一瞥もすることなく、その場を後にした。そんな彼の後を追いかけて、家族たちも次々と去っていく。蓮花に非難の声を浴びせることを忘れずに。

「こんな者と婚約しようとしていたなんて、とんだ外れをひくところだったわ!」

「早くこの場を離れなくっては!」

「汚らわしい!」

過去の優しさは、もうそこには存在しなかった。残されたのは、地面に座り込む蓮花と、呆気にとられている祈父、そして、甲高く嗤う桔梗のみ。

「祈父、婚約の儀は中止よ。次の儀があるのではなくって?」

桔梗は、嘲笑うような、冷たい声で、祈父を追い返した。蓮花は、その言葉に、自分が、最初からこのための道具だったのだと、ようやく悟った。

祈父の姿が完全に視界から消え去ると、桔梗は、嘲笑を浮かべながら蓮花につかつかと歩みよった。その足音は、蓮花にとって、絶望へのカウントダウンのように聞こえた。