名前を奪われた少女は、妖神と共に誓いを抱いて歩む。ー名喪ノ帳帖ー

蓮花は、不安で胸が締め付けられた。蓮花が独り身だから、という理由をつけて、桔梗がついてきていたのは、この後に起こることが何か知っていたからなのだろうか。

「どうされましたか?手を」

祈父が、焦れたように、しかし、儀式を妨げることなく、再度、蓮花に問う。

蓮花は、恐る恐る手を祈父の方へ伸ばした。その手は、冷たく、そして震えていた。蓮花は、その不安を打ち消すように、ぎゅっと目をつむり、時間が経つことを待った。

一秒、二秒……。

周りの反応がないので、蓮花は、ゆっくりと目を開けてみた。すると、祈父は、信じられないものを見るかのように、目を見開いていた。そして、蓮花を気に入ってくれていた男性は、まるで汚いものを見るかのように、蓮花を蔑むような目をしていた。

(あぁ、やっぱり名は浮かばなかったんだ)

蓮花は、絶望の淵に突き落とされた。

儀式が進まないことを疑問に思ったのか、相手方の両親が席を立ち、声をあげた。

「祈父よ、儀が中断されたように見えるが、なぜだ?」

「何か問題が起きたのでしょう?祈父には、早く説明を求めますわ」

彼らを筆頭に、他の親族たちも、そうだそうだ、と声をあげる。その声は、蓮花に刺さり、心の奥をえぐっていくようだった。