名前を奪われた少女は、妖神と共に誓いを抱いて歩む。ー名喪ノ帳帖ー



桔梗は、蓮花を見下し、そう言い放った。その声は蓮花の心を凍らせる。床の料理を片付け終えると、桔梗は、いつもと同じ、無駄な、しかし決まった言葉を口にした。

「別の食事を用意しなさい。私は自室で食べるから」

それが、毎朝の恒例行事だった。品数を減らすと、王族の食卓なのに貧相だと罵られ、フォークが飛んできたこともある。その時、頬に当たったフォークの先が、今でも、うっすらと痕になって残っている。蓮花は、その痕を、そっと指でなぞった。

口にすらしない料理に、「不味そう」とグラスの飲み物をかけられたこともある。その時の、飲み物の冷たさ、そして、桔梗の顔に浮かんだ楽しそうな表情が、蓮花の脳裏に焼き付いている。毎度、毎日、年中、日課のように、蓮花は、桔梗にいじめられていた。

蓮花は、片付けを終え、屋根裏部屋に戻ろうとした。その時、後ろから冷たい声が聞こえてきた。

「ちょっと待ちなさい」

その声に呼び止められたら、振り返らないわけにはいかない。蓮花は、深いため息をつくのを我慢し、作り物の笑顔を顔に貼り付けて、ゆっくりと振り返った。

彼女の両親は、椅子に座ったまま、蓮花に冷ややかな視線を投げかけるだけ。基本的に何もしてこないのが、彼らだ。蓮花は、彼らの視線から、蓮花をただの道具としか見ていないことを知っていた。
桔梗が自室で食べると出て行った後、皇帝と王妃の前の皿も下げられ、新しい食事が並ぶのだ。