名前を奪われた少女は、妖神と共に誓いを抱いて歩む。ー名喪ノ帳帖ー

名を呼んでもらえることで、蓮花は自分が家族の一員であることを、そして愛されていることを、肌で感じていた。それは、何よりも確かな、家族の絆そのものだった。

薪を割る父を手伝いたくて、冬の冷たい風が頬を刺す中でも、蓮花は一生懸命、小さく割れた木片を両手で運び続けた。その手から伝わる木の匂いと、父の「助かるよ」という優しい声が、蓮花の体を温めてくれた。

母と一緒に草を編んだりもした。瑞々しい草の青い匂いが、指先から鼻腔をくすぐる。器用に編み上げられた草が、小さな冠となり、蓮花の頭の上にちょこんと乗せられた。

「蓮花には草の冠も似合うわね」

母の言葉に、蓮花は嬉しくて、飛び跳ねていた。

「花の冠も美しいが、蓮花は何でも似合うな!」

父もまた、誇らしげに目を細めた。その言葉に、蓮花はとても嬉しく笑顔が自然とあふれていた。

小さな庭の片隅に、白い花が群れて咲いていた。朝露をその花びらに宿し、太陽の光を浴びてキラキラと輝くその花は、名も知らぬのに、いつも蓮花の目に留まる、可愛らしい花だった。踏まれても、摘まれても、翌日にはまた健気に花を咲かせている。その小さな白い花を見るたびに、蓮花は、不思議な懐かしさを感じていた。