名前を奪われた少女は、妖神と共に誓いを抱いて歩む。ー名喪ノ帳帖ー

宮殿に仕える者たちが、皇女さまと言葉を交わす。彼らは、ふと蓮花に視線を向けると、値踏みするように視線を巡らせた。

「そこの子よ、こちらに来なさい」

その声は、蓮花に向けられた命令だった。蓮花は、どうして自分だけが、と戸惑いながらも、一人だけ別の部屋へ連れていかれる。振り返った蓮花が見たのは、嘲笑うような、薄気味の悪い笑みを浮かべ、手を振る桔梗の姿だった。その笑みに、蓮花は、全身に寒気が走るのを感じた。

部屋に入ると、蓮花は礼装というものに着替えさせられた。その着物の袖口は手が隠れるほど長く、裾も足が隠れるほど長く引きずった。

「この場所は、名の登録や管理をする帳殿と呼ばれる建物です。あなたも、ここで名を得て、人となるのです」

着替えを手伝ってくれた者が、丁寧に名の登録の手順を教えてくれた。その声は、優しく、しかしどこか機械的だった。蓮花は、着てきた服よりも重かった礼装に、体中の筋肉を強張らせながら、教えられた通り、開かれた扉から、帳台と呼ばれる、名を登録するものだけが立つ机の前まで移動する。
すでに帳帖は置かれていた。表紙には、この霜霞国の紋様が刻まれている。蓮花は、その紋様を、ただただ見つめていた。

「汝の名を記さん。手を前へ」

重たい礼装で転ばないように、神経を張り巡らせていた蓮花。声のした方に目線を動かすと、その視線の先には、桔梗がいた。