名前を奪われた少女は、妖神と共に誓いを抱いて歩む。ー名喪ノ帳帖ー

「皇女さま!抜いてはなりません!!」

刃物を抜き、再度、子どもに突き立てようと、血に濡れた手に再度手を伸ばしていたところを、蓮花は間一髪で止めた。蓮花の手は、震え、冷たくなっていた。だが、子供を救うという一心で、その冷たさを感じている暇はなかった。

蓮花は刃物を抜こうとする桔梗の手を掴んだ。

「皇女さまの動向を阻むとは、到底許されることではない!」

使用人は、怒りに満ちた声でそう叫び、蓮花をどかそうと、その腕を強く掴んだ。蓮花の腕に、使用人の爪が食い込む。しかし、蓮花は、その痛みを気にしている場合ではなかった。子供を助けたいという一心で、蓮花は言葉を紡いだ。

「お待ちください、皇女さま!この子の血が、皇女さまについてしまわぬようにと思ってのことです!」

蓮花は、そう叫びながら、まだ少年の手に突き刺さったままの刃物を指差した。血は感染の元である。そんな専門的な知識などなかった蓮花は、子供がこれ以上傷つく姿を見たくなかっただけである。ただただ、痛がっている子供に、これ以上傷をつけてほしくなかった。

「あら、わたくしをそこまで思ってくれているなんて。貴方、命拾いをしましたね」

桔梗は、口元に薄気味悪い笑みを浮かべた。