名前を奪われた少女は、妖神と共に誓いを抱いて歩む。ー名喪ノ帳帖ー

すると、皇女と知ってか知らずか、少年が何かを叫び、桔梗に掴みかかった。使用人が止めに入ろうとするのを、彼女は制した。少年は、小さな拳を振り上げ、桔梗を何度も叩いていた。

しばらくすると、遠くから足音と、金属が擦れるような音が聞こえてきた。自警団が来たのか、少年は首根っこを掴まれ、桔梗から無理やり引き剥がされた。

「可哀想じゃの。恐らくあの子は先日捕まった人の子供じゃろうて」

御者は、深く眉を下げて、悲しそうに呟いた。その声には、憐憫の情がにじみ出ていた。

「なにかあったの?」

蓮花は、どういうことなのか理解できず、尋ねた。

「お前さんはここらの者じゃないのか?それなら知らないのも無理はないわのぉ」

御者は、街の空気を吸い込むと、深く息を吐いた。

「先日、女性が捕まったんじゃが、罪状は窃盗。でもな、窃盗で捕まる人々の多くは、無罪なんじゃ。というのも、窃盗罪で捕まるほとんどの者は、貴族らに陥れられたものばかりじゃ。貴族らの娯楽の一つとされていての、街に赴き、道すがらわざとらしく人とぶつかる。自らぶつかったのにも関わらず、大袈裟に痛がり、平謝りしかできない彼らを見下しながら、今度は財布がなくなったと騒ぎ立てるんじゃ。ぶつかったときに盗ったのではと難癖をつけられて荷物を奪われるんじゃが、その荷物確認の中で財布が出てきて、捕まるという筋書きよ。