名前を奪われた少女は、妖神と共に誓いを抱いて歩む。ー名喪ノ帳帖ー

さっきまで道案内をしてくれていた男の子は、もうどこにもいない。まるで最初からいなかったかのように、彼の存在は、風のように消え去ってしまっていた。

蓮花は、もういいよねと思い、感謝の気持ちを小さな声で呟いた。

「ありがとう」

その言葉は、空に溶けて、儚い音となって消えていった。

蓮花が息を切らして駆け寄ると、桔梗は優雅な仕草で椅子に座り、机に並べられている豪華な食事を、ただ一人楽しんでいた。銀の食器が、太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。その光は、まるで蓮花を嘲笑っているかのようだった。

「勝手に離れて、ごめんなさい」

蓮花が小さく謝罪すると、桔梗は、口元を拭いながら、冷たい嫌味を飛ばしてきた。

「ずいぶんと待たせたわね。道にでも迷っていたのかしら?まったく、なんて鈍臭いのかしら」

蓮花は、今回ばかりは自分が悪いからと、桔梗の言葉を黙って受け入れた。

「罰として、食事は抜きです。地面へ座っていなさい」

桔梗の声は、冷たく、容赦がなかった。蓮花は、言われた通り、地面に座った。使用人の2人は桔梗から、食事を許されたのだろう。レジャーシートに座り、昼餉を頬張っていた。

3人は昼餉を食していたけれど、蓮花の分は元々なかったのだろう。蓮花は、テーブルの上に置かれたボックスを、ちらりと見た。