名前を奪われた少女は、妖神と共に誓いを抱いて歩む。ー名喪ノ帳帖ー

男の子は、ふわりと優しい笑みを浮かべ、蓮花の歩くペースに合わせて、まるで雲の上を歩くかのように、木々の上を軽やかに歩いていく。

怖くないのかな。なぜそんなことができるのだろう。たくさんの疑問が、蓮花の頭の中を駆け巡った。しかし、彼に話しかけることはできない。蓮花は、ただ黙々と、彼の後を追って歩き続けた。木々の葉擦れの音、風の匂い。それらだけが、2人を包んでいた。

どれくらい歩いただろうか。蓮花が、息を切らし始めた頃、ようやく道が開けた。迷路のように感じたその先に広がっていたのは奇麗な色とりどりの花が咲き誇る丘。辿り着いたのだ。

彼が指差したその先には、蓮花を待ちわびることもなく、机と椅子で広げ優雅に昼餉を嗜んでいる桔梗と、レジャーシートにのんびりと座っている2人の使用人がいた。

蓮花は、その姿を認めると、感謝の言葉を伝えることはできないからと案内をしてくれた男の子に会釈をする。そしてそのあとは3人を見つけた安堵から、全速力で走り始めた。
そんな蓮花を見つけた桔梗の顔には、苛立ちと、そして、ほんのわずかな不気味な笑みが浮かんでいたことを一心不乱に走る蓮花の目には映っていなかった。

「また逢える日があるのなら、その日までサヨウナラ」

優しい、しかし、どこか寂しげな声が聞こえた気がした。蓮花は、駆けていた足を止めて後ろを振り返った。