名前を奪われた少女は、妖神と共に誓いを抱いて歩む。ー名喪ノ帳帖ー

桔梗は、その言葉を、甘い毒のように蓮花に紡いでゆく。蓮花は、その優しさが偽りであることなど知る由もなく、純粋な喜びで満たされていた。

「楽しそうだね皇女さま!!ありがとうございます!」

蓮花は、家の庭にある、名も知らぬ白い花が、この王城の庭にも咲いているかなと、胸を躍らせていた。彼女の傍らで、桔梗とその使用人が、薄気味悪く、しかし楽しそうに笑っていたのを、蓮花は知らなかった。

お庭は、庭師という専門の人間が手入れをしているらしい。その庭は、まるで一枚の絵画のようだった。高さが均一に揃えられた芝生の上には、白く、美しいタイルが敷かれており、その道を歩く。植えられた花たちは、色鮮やかで、息をのむほどに美しかった。その中には、確かに、蓮花の家にあった花に似ているものもあったが葉っぱの形が違っていたり、花びらの枚数が違っていたり、同じものは咲いていなかった。

蓮花が、美しい花々を眺めていると、庭師たちが作業の手を止めて、桔梗に深々と頭を下げているのが目に入った。なぜなのか、蓮花には分からなかった。王城の中の使用人たちは、すれ違っても、頭を下げることはなかったからだ。その違いに、蓮花は不思議な気持ちになった。

「皇女さま、本日はご機嫌麗しく……」

庭師たちの声は、緊張に震えていた。