名前を奪われた少女は、妖神と共に誓いを抱いて歩む。ー名喪ノ帳帖ー

「貴女、走りましたね?王城内を走り回るなんて、何てはしたない。髪も服もみすぼらしいこと」

声は苛立ちに震えている。蓮花は、ただ、謝罪の言葉を小さく口にすることしかできなかった。
王城は走らない。どんなに急いでいようと駆けてはいけななかった。

「ごめんなさい……」

蓮花は、ただ「ごめんなさい」と呟き、走って乱れてしまった服を、震える手でなんとなく直した。髪は手櫛で梳かしたり、押さえつけたりして整える。頬の熱い痛みは、蓮花の心をさらに沈ませた。

そうこうしているうちに、皇女の桔梗が、まるで優雅な人形のように部屋から出てきた。もちろん、先ほど蓮花を叱った使用人ともう1人。まるで自分の影であるかのように侍らせている。その使用人は、蓮花の姿を捉えると、眉と口元をピクリと震わせ、桔梗に何かを囁いた。

桔梗は、その報告を耳にするなり、優雅な笑みを浮かべ、蓮花の汚れた服と乱れた髪を眺めた。

「ピクニックだからちょうど良いのではないかしら?その服、とても良くお似合いよ」

その声には、皮肉と、嘲笑がたっぷりと含まれていた。蓮花はその皮肉に気づかず、「ピクニック?」と、目を輝かせた。

「ええ、お庭を案内してさしあげたあと、そのままご飯を食べるのよ。昨日朝餉を食べすぎないように伝えたでしょう?夕方には城外の街も案内してさしあげますわ」