名前を奪われた少女は、妖神と共に誓いを抱いて歩む。ー名喪ノ帳帖ー

「何も聞かなかったのは私ですし、碧嶺さんは皇女さま、いいえ、もう桔梗と呼んでいいかもしれませんね。彼女のようにひどいことをする方には到底思えませんでしたから。」

なぜか蓮花は碧嶺と初対面なはずなのに、初対面だとは思えない部分もあった。
王城の庭で迷った蓮花を助けてくれた男の子。彼には碧嶺のように頭に角はなかったものの、瞳の色と困っている人を放ってはおけず助けてくれる優しさが碧嶺と似ていた。

「それでも、僕の逑として蓮花は知っていないといけないことなんだ。」

たしかに蓮花の知っていることと言えば、黛黯から聞いたことだけが全てだった。
黛黯もあとは碧嶺から聞くといいと言っていたことを思い出し、碧嶺の言葉に耳を傾けた蓮花。

「この話は少し長くなる。あれは、まだ僕が先代から代替わりしたばかりの頃のことだった。誰にも姿も見られず、声も聞かれないことを逆手にとり、王城の庭を勝手に遊び場にしていたことがある。あの日は王城の庭でのひとり遊びに飽きていたところだった。木の上で寝転んでいると、迷子の女の子の声が聞こえてきた。その娘は迷子になっていたようだった。声をかけてみると僕の声が聞こえたのか僕のことを探しあてた。彼女には僕が見えていたし声も聞くことができた。