名前を奪われた少女は、妖神と共に誓いを抱いて歩む。ー名喪ノ帳帖ー

私はまだ未熟者ですし、見た目からしても黛黯さんの足元にすら遠く及びません。寿命の差が、いつか私たちを分かつ時が来ることも、わかっています。でも、それでもこの気持ちを諦めることはできません。それに私は、碧嶺さんがそもそも自分自身を選んでくれることはないのですから、その気持ちを伝えるつもりは毛頭ありません。伝える機会がなくてもいいのです」

彼女の言葉は、嘘偽りのない、飾りのない、まっすぐなものだった。黛黯は静かに目を閉じ、そしてゆっくりと開けた。その眼差しは、先ほどの厳しさとは違い、どこか安堵したような色を帯びていた。

「……合格だ。それにしてもお主、妾は先ほど『霊誓紋を解いてもらえ』と言ったが、解くことはできぬぞ?もうすでに契っておるのであろう?」

「ちぎ?!いや、えっと、あの……」

「その指についているのは、霊誓紋ではないか?ならば、碧嶺がお主に特別な贈り物をしたということだ。お主の反応を見るにあやつは何も話しておらぬのであろう。あやつを支え、時には引っ張ってゆくことこそが逑としての務めになる。」

そう言って、深くあきれた様子の黛黯。
蓮花の揺るぎない覚悟と、碧嶺への愛の深さを認めてくれたのだった。

そして黛黯は『ここから先は碧嶺から聞くがよい』と言い残し、凍泉島へ帰っていった。
蓮花は今度も何とかこけずに舟着き場にたどり着き、雲覇の移動雲に乗り込んだ。