名前を奪われた少女は、妖神と共に誓いを抱いて歩む。ー名喪ノ帳帖ー

その後、翠嶺島へ戻った蓮花と久惔。父の死を悼む蓮花の隣で、妖神である碧嶺はただ静かに寄り添っていた。

「人はいつか死ぬものだとは、あえて今は言わないよ。悲しかったね。それにキツイことを言ってすまなかった。無理はしてもいいが、無茶をしてほしくなかったんだ」

「いえ。私のほうこそごめんなさい。」

その優しい言葉に、蓮花は改めて碧嶺の温かさを感じた。そして、涙を流し続ける日々に別れを告げるべく、碧嶺に一つの提案をした。

「碧嶺さん、滅びた霜霞国を、島のみんなと牢にいた人たちとで復興させませんか?」

東西南北に分かれていた島の人々が、再び一つの故郷へと集い、新しく築いていく。その提案に、碧嶺もまた深く賛同した。

久惔は他の島にも伝える役を買って出てくれた。翠嶺島にいる人々も協力を惜しまないという声が上がった。虎牙島からも皆来てくれるそうだった。

安心したのも束の間、あたりが一気に寒くなる。それは、かつて霜霞国の北部だった場所を訪れたときに感じた冷気に近い。

「黛黯が蓮花と話がしたいとついてきた」

久惔がそう告げると、蓮花の前に、一人の女性が現れた。肌は雪のように白く、カラスの濡れ羽色をした艶やかな髪が、長く、流れるように下がっている。眼は深い藍色で、水底のような静謐さの奥に、氷のような冷たさを孕んでいた。