名前を奪われた少女は、妖神と共に誓いを抱いて歩む。ー名喪ノ帳帖ー

ただ、澄紗を、じっと見つめるだけだった。

その子供に、まずは湯浴みをさせようと、服を脱がしたときに、澄紗はその子供の首に提げられていた宝晶石に目が留まった。その宝晶石は、南国でしか取引されていなかった火晶石だったからだ。

南国──羽耀国が滅亡した今、火晶石を持つ者は、南国の者だとみなされて、処罰の対象になる。火晶石を持つ人々は、みな処分をしたはずである。そして、今、羽耀国の象徴でもあった、この火晶石を持つこの子供が、唯一の南国の生き残りなのかもしれないと、澄紗は思い至った。

しかし、4国戦争の頃といえば目の前の子供は2歳にも満たない年齢になる。一人きりで生きていける世の中ではなかったはずである。どうやってこの子は生き延びたのだろうか?この子供に聞いても、返答があるとは思えない。この火晶石に何か情報はないかと調べてみるも、有益なことは何もなかった。

いや、一つだけあった。

この子供の名前が彫られてあったのだ。

『羽守 蓮花』

これで謎は確信に変わった。羽守を名乗れるものは、南国の王家のみ。つまり、この子供は、今は亡き南国の皇女ということだった。

幸いにも、この場所は中央から遠く離れている。近所に住む人もいない。草原が広がるのどかな丘と、その先にある森を抜けなければ、人に会うこともない。