名前を奪われた少女は、妖神と共に誓いを抱いて歩む。ー名喪ノ帳帖ー

久惔が片翼を振ると、炎が人型を取った。それは、7年間見ることの叶わなかった、蓮花の母親。いや、育ての母親というべきだろうか。

「母さん……?」

蓮花が手を伸ばしても、人を模しただけの炎であるから、すり抜けていく。

「蓮花を、この家に預けた日の出来事を再現しよう」

そう久惔が告げると、蓮花は、自分自身が動けなくなってしまっていることに気づいた。目の前にいる、育ての母親を模った炎が、動くのみだった。

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そして、4国戦争が終結し、しばらくたった、ある日のこと。澄紗は、いつものように家事をしていた。その日の天気は、澄み切った青空が広がり、風は穏やかだった。

突然、澄紗の目の前に、光り輝く霊が現れた。その霊は、薄いオレンジ色に光り輝いており、その姿は、まるで鳥のようだ。霊は、澄紗に、懇願した。

『この子供を預かり、育ててはかれまいか』と。

それだけを繰り返すと、その霊は、澄紗の返事を待つことなく、玄関の扉をすり抜けていった。ほんの数秒間の出来事だったが、澄紗は、その言葉に、胸騒ぎを覚えた。急いで玄関の扉を開けると、そこには、5歳ごろに見える、女の子がいた。あたりを見回すも、その子供の両親の姿も見当たらない。

澄紗は、その子供を家の中に招き入れ、いろいろ話しかけてみるも、子供は何も話してくれようとはしなかった。