名前を奪われた少女は、妖神と共に誓いを抱いて歩む。ー名喪ノ帳帖ー

その赫の瞳に捉えられた絵描きの男性、斎は、震えあがると、観念したように、すべてを吐き始めた。

「私は、霜霞国の王城勤めの一介の兵士にすぎませんでした。得意なことと言えば絵しか取り柄がなかったのですが、その絵描きの技術を買われて、皇女さまに呼び出されました。白羽の矢が立ったのは、皇女さまの周りには絵を描けるものはおろか、文字すらかけないものが多く仕えていたからだと思います。教養のある者が数名、側仕えとなっているのみでした。

呼ばれた理由も分からず、頭を垂れて跪いていると、『わたくしの兵の代わりに紋を体のどこかに刻ませなさい』と言われたのです。拒否することはできませんでした。断るとどんな目に遭うのか、想像するのすら恐ろしかったからです」

斎は、そう言って、おもむろに上の服を脱いだ。腕から肩、腹から胸にかけて、同じ紋章がいくつも刻まれており、蓮花を含む全員が息を飲むほど痛々しい光景だった。

「これは、転移紋といって、紋に接している任意の対象物を、一度だけ皇女さまの元へ届けることのできる紋でした。なぜ自分が選ばれたのかも分からぬまま、たくさんの転移紋が自分へ刻まれていきました。そして、皇女さまに告げられたのは、死刑宣告とも同意の言葉だったのです。