名前を奪われた少女は、妖神と共に誓いを抱いて歩む。ー名喪ノ帳帖ー

これまで揺れることなどありえなかった大地が、まるで生き物のように震え、島人たちは恐怖に顔を引きつらせ、立っていることすらままならない。

「一体、何が起こっているの……?」

蓮花は、揺れる波に乗る舟の上で、不安げに霜霞国の方角の空を見上げた。霜霞国からは、不吉な音が響くだけだった。

「蓮花!人数が多いから牙虎島へ連れて行く!彼らに説明と、翠嶺島の中へ案内をする人を分けておいてくれ!」

久惔の声が、騒音に紛れて聞こえてくる。
揺れは舶をも襲い、その波の揺れで人々の不安を増幅させる。

「わかった!任せて」

そう言いながら、蓮花は舶にいる人々を安心させるべく説明をする。そして翠嶺島で舶から降ろされた人々をまとめ、案内し始めた。彼らは、列をなして一人ずつ、幻衣の奥へと消えていく。

「申し訳ありませんが、こちらでしばらくお待ちいただけないでしょうか?すぐに別のものを呼んでまいりますので」

蓮花は、そう人々に伝えると、翠嶺島の中を駆け抜けた。島人に碧嶺がどこにいるかを聞こうとするが、誰もいない。

「蓮花!」「蓮花さま!」

そんな中、頭上から声が聞こえてきた。その声の主は、碧嶺と蒼翼だった。彼らの後ろには、雲覇の雲の乗り物もついてきている。

「すまない。いまだかつてなかった揺れに見舞われて、皆を天閣へ避難させていた。空に浮いているから安全だったんだ」