名前を奪われた少女は、妖神と共に誓いを抱いて歩む。ー名喪ノ帳帖ー

北国の民たちは、いち早く避難を開始した。地続きの交流をしていた他国に、身を寄せさせてほしいと頼み込んだ。快く北の民たちを受け入れてくれた隣国。

そして、王族の無関心と傲慢さに絶望した一部の国民も、わずかな荷物を背負い、ポツリポツリと霜霞国を捨て、出ようとした。

しかし、北国にたどり着くも、彼らの薄い装いでは、凍てつく寒さを凌ぐことは到底かなわず、戻ることを余儀なくされた。絶望に打ちひしがれた彼らの間に、希望の言葉が囁かれた。

「門から外へ出ていく少女を見た。われらも続くのはどうだろうか」

とある一人が言い出したのだ。その言葉に、人々は一瞬、光を見出した。しかし、言い出した者も含め、最初は誰も行こうとしなかった。門の外がどうなっているか、誰も知らない。それは、未知への恐怖だった。

門前で押し問答をしていた国民は、巡回中の兵に見つかり、家に帰される。兵から話を聞いた皇女は、冷酷な目で、こう告げた。

「門の外へ出たいなら、勝手に行けばいいわ。ただし、皆等しく名喪人となり果て、この国に二度と戻ってこれるとは思わないことね」

その言葉に、国民の心は凍り付いた。

「国民が国を捨てるというのなら、そんな人たちはもう国民とは呼ばなくていいのではなくて?イラナイ存在よ」