名前を奪われた少女は、妖神と共に誓いを抱いて歩む。ー名喪ノ帳帖ー


彼らは、その言葉の意味を、思いのほか早く知ることとなる。静かに、しかし、あまりにも残酷な形で、霜霞国の終わりは訪れた。

一国の命運を左右するはずの、妖神と王族の婚儀という厳かな儀式。選ばれたのは、若くして強い力を持つ妖神・碧嶺と、高貴な血を引く皇女・桔梗。誰もが祝福するはずのこの婚儀。

しかし、桔梗の「私は妖神などと契りを交わすつもりはない」という冷酷な言葉によって、水泡に帰した。彼女のその言葉には、妖神に対する侮蔑と、自らが王族であることの絶対的な優越感が滲み出ていた。そのたった一人の皇女の傲慢な拒絶は、終わりへと向かう引き金となったのだった。

その決断が、霜霞国に未曾有の災厄をもたらすことになるとは、彼女自身も、皇帝と王妃も、そして、誰もが想像すらしていなかった。彼らにとっての、ただの拒絶は、この国を護る神々への、明確な反逆だったのだ。

だが、慈悲の心を残していてくれたようで、危険を感じた国民の一部の人々は、荷物をまとめ始めた。

最初の警告は、空を染める不気味な赤い光だった。それはまるで、血のように粘りつき、不穏な影を大地に落とした。朝が来ない空の色。人々は、空を見上げ、その異様な光景に不安を覚えていた。王族は、これを「珍しい天体現象だ」と一蹴したのだった。