名前を奪われた少女は、妖神と共に誓いを抱いて歩む。ー名喪ノ帳帖ー

そう叫び、自室に引きこもると、皇帝と王妃の呼びかけに応えなくなり、人前に姿を出すこともなくなった。桔梗の激昂とした悲痛な叫びは、しかし、皇帝と王妃には届かなかった。

「御告げを拒否し、国が傾いた場合、国民からどう思われるか」

皇帝と王妃にとっての優先順位は、国ではなく、自分自身。いかに人々に非難されないかが大事だった。

桔梗が自室に引きこもり、数日が経った。妖神を待たせすぎてしまい、国に良からぬことが起きてしまうことを恐れた皇帝と王妃は、碧き祠にそろって赴くことにした。

「ようこそ、霜霞国の王族よ」

碧嶺の穏やかな声が響くも、姿が見えない霊神を、皇帝と王妃は怖がった。震える声で、皇帝は現状を伝える。

「わが娘、桔梗は、この婚儀を望んでいないようです。無理に婚儀を進めず、いましばらくお待ちいただけないであろうか」

続けて王妃も重ねる。

「必ずや、娘を説得いたしますので」

しばらく沈黙が続き、碧嶺がその沈黙を破った。

「この婚儀は単なる慣習ではないと理解しての決断であろう。国が混沌に陥るのを、その目で見ているといい。おまえたちのその愚かな傲慢さが、招いた行く末を受け入れるがよい」

その言葉を最後に、祠は静まり返った。