名前を奪われた少女は、妖神と共に誓いを抱いて歩む。ー名喪ノ帳帖ー

蓮花自身は知らなかったであろうが、彼女の母親である澄紗は、霜霞国となる前の西の国、霜峰国の王家──守牙家の次女だった。蓮花は授舎なるものには通っていなかったが、母親からある程度の教養を身につけるためにといろいろと教わっていた。
蓮花の吸収は凄まじく、澄紗も蓮花に教えることが楽しくて、ある程度どころではなく、学も舞も所作も、すべてにおいて桔梗を凌駕するほどの教養が身についていた。

しかし懸念点もあった。
家族としか関りがないから目上の人への話し方や、同年代の子とのかかわり方だけが澄紗は蓮花の問題点だと考えていた。
どうか蓮花の身に何か不吉な出来事が降りかからないようにと願うしかなかった澄紗であった。

桔梗は皇女の1日として蓮花を学間・舞間・所作間に案内し、自分自身が師に問われたことを「貴女はどう思う?」などと、答えを蓮花に言わせ、恥をかかせようとしていた。桔梗の悪意に満ちた策略だったが、その策は失敗した。それぞれの師も、蓮花の優れた才能に驚き、惜しみない賞賛の言葉を口にした。その言葉を聞くたびに、桔梗は奥歯を噛み締め、余計に腹が立った。

文蔵庫に行って一人になろうとするも、蓮花が純粋な好奇心からついてきて、桔梗の不満はますます募っていく。虫の居所が悪く、怒りを押さえきれなかった桔梗は、早々に文蔵庫を立ち去り、自室に戻ってしまった。

そうとは知らず桔梗を追いかけた蓮花は、使用人に『皇女さまの自室に入ることを貴女に許可されていない』と、冷たく告げられ、扉を閉ざされた。