帝・彰親の口からこぼれたその言葉は、本気とも、戯れともつかぬ響きだった。

高頼は苦笑しながら、帝の杯に静かに酒を注ぐ。

「難しいでしょうね。帝の位に就かれた今となっては。」

「そうか?」

帝はゆるく眉を上げて問う。高頼は扇を閉じ、少し真顔になった。

「次代の帝を立てるには、お子様を作らねばなりません。世は安定を求めておりますゆえ。」

「……結局、その話か。」

彰親はやれやれと言わんばかりに肩をすくめ、再び杯を口元に運ぶ。

「次の帝なら、弟宮がいる。才もあり、誰もが認めるだろう。」

「それでも、民も朝廷も、聡明な帝のお子を見たいのですよ。」

高頼の声音には、わずかな敬意と、本音が混ざっていた。

帝という男の知と才を最もよく知る友だからこそ、その血を継ぐ子の誕生を望む声に、嘘はなかった。

しかし、帝はただ静かに杯を置き、帳の向こうをぼんやりと見つめた。