宵の月、秘めたる契り―帝に愛された二人の女御―

「それはいないと、はっきり申しておりました。ただ……“私などが帝のお相手など”と。」

「そうか……」

帝は、手にした杯をじっと見つめる。

恐れでも、遠慮でもない。

あの女の眼差しにあった、控えめな気高さと自尊心――それを思い出していた。

「……あれほど美しく、慎ましい女が、どうして今まで誰の目にも止まらなかったのか。」

自分の心に、ふと射し込んだ光のような存在だった。

帝の胸の内に、初めて芽生えた感情が、静かに広がっていくのを、自分自身が一番感じていた。

「綾子の家は……その……」

高頼が言い淀むのを、帝・彰親は片眉を上げて促す。

「ん?」

「もう、落ちぶれていまして……今は官位もほとんどなく……」

その言葉に、帝は静かに顔を曇らせた。

杯を手の中でゆっくりと回しながら、口を開く。

「誰も、落ちぶれた家の姫君を妻にしたいとは言わなかったか。」

「……はい。皆、血筋や政の利ばかりを見ております。」