『あ……ッ、紅龍様……ッ』

 紅龍様の熱い舌が私の口内に捻じ込まれる。
 強引に呼吸を奪われた私は、流し込まれる唾液を恥じらいながらも深く味わう。
 すると、唇を離した紅龍様が劣情の熱に溺れた瞳で私を見つめた。

 『ディディ……愛してる』



 ――という内容を窓辺の机で一心不乱にノートにガリガリ書いている私。
 ペンを持つ手に残像が浮かぶほどの光速タッチの執筆である!

 「ハァハァ……! あと少しで12回目のエッチシーンにいくわ! 紅龍様と、すれ違いの果てに両片思いからのエッチとか尊すぎるわよね!!」

 そう……あまりにも紅龍様との仲が進展しないし、元チビーズはセクハラばっかしてくるし(ガルーもサングレも乳とかケツばっか触ってくるし!!)で、キレた私はストレスMAXのあまり薄い本を作成するに至っていた。

 勿論、実在の人物をオカズにするなんて紅龍様や元チビーズに見つかったら人間性を疑惑の目で見られるから絶対に見つからないように気をつけているわよ!

 彼らが仕事で帰ってこない時間にしか書いてないしね! ふふん♪←フラグ

 「何してんだヨー^^」
 「ぬぅぅぅぅぅぅぅううううんんんあああああああああ!!」

 背後から紅龍様の声が聞こえた私は机にスカートをかぶせてごまかす。
 そして音速で振り返ると、紅龍様にペコちゃんみたいにカワイイ笑みを見せて、張子の虎の如く顔を頷かせる。

 「お、おかえりなさ~い♥紅龍様♥今日は早いんですね♥きゃぴるんっ♥(首ガクガク)」
 「あ、明らかに怪しいヨ! オマエ、また何かヤベーことしてたんだロ!」

 紅龍様が机を見ようとする。
 しかし私は俊足カニ歩きで阻止した。

 「し、してねーヨ! ワタシ何もヤベーことしてねーヨ!」
 「ワタシの喋り方、真似すんなヨ! どっちが喋ってるかわかんなくなるだロ! あとパンツ見えてんゾ!」
 「嘘ッッ!」

 机にスカートをかぶせすぎるあまり、パンツという最後の砦をオロソカにしてしまっていた!
 今日は勝負パンツとはいえ、推しに見られるにはシチュエーションが狂気すぎるわ!!
 推しにパンツを見せるシチュはノートに完璧に書いているんだし!
 (紫の薔薇の花弁が舞うベッドルームで100万ドルの夜景を背に、紅龍様に恥じらいながらパンツを見せる私という完璧すぎる流れ)

 とか思ってたけど、パンツは見えてなかった。

 「え……? あれ?」

 呆然とする私の前で、紅龍様がイタズラっ子な笑みで「嘘~」と言いながらノートを手にし……うッッぎゃぁああああああああああああああああああああああッッッッ!!

 奇声を上げながら前後左右に飛び跳ねる私に紅龍様がビクッとしていた。

 「やだぁぁぁあああああああ! 見ないでください! そんな恥ずかしいものウォォォォオォオオ!」
 「今のオマエの動き、新手のクリーチャーみてーにヤベーんだけど、それよりヤベーのかよ!」
 「ぶうぉぉぉぉおおおおん!!(泣きながら頷く)」

 あまりにも哀れだったらしく、紅龍様が目を逸らしながらノートを返してくれた。

 が、そのノートを掴もうとした私の手が空を切る。

 紅龍様の後ろから伸びた手にノートが取り上げられたのだ!

 紅龍様の後ろに居たのは……ガルーに……サングレまでいるぅぅあぁああああああ!!

 頭を抱える私の前でガルーは「何してんだよ」と、無造作にノートをパラパラ捲り……ちょ、やめろ、おま、ちょぉぉぉぉぉぉぉおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!

 駆け寄ろうとした私は床に躓いた! すかさず紅龍様に抱きとめられる!(思わず胸キュン♥)

 って、今はキュンしてる場合じゃなぁああああああああああああい!!

 その間にガルーとサングレがノートを見てしまったのだ!!

 「……」
 「……」

 ガルーは無表情だったけど、覗き込んでいたサングレはニヤニヤしていた顔が……直ぐに綺麗なブルーハワイ色に染まった。
 ワーキレイー(棒読み)
 サングレは次第に目元を手で押さえて『もう無理です。耐え切れません……』と苦痛を訴え始める。止めて! 痛いってわかってるからコメントしないで! そんな目で見ないで!!

 恥辱で逝きそうな中、ガルーは咥えた煙草を上下させて目を細めていた。

 そしてノートを閉じると、口角を上げ、長い指で胸元をはだけさせる。

 「……オレが相手なら、もっと満足させてやれるけどな」

 はあー? と問い返すも、ガルーはノートを手に部屋から出て行こうとする。
 私は紅龍様の腕の中でエビの如く跳ねて慌てた。

 「こら! 返しなさい!(ビチビチ!)」
 「返してほしけりゃ、オレの部屋まで取りに来いよ」
 「は?(ビチ……)」
 「シャワー浴びて待っててやるからよ」

 ぬぐぐぐぐぐぐぐ!! 何じゃそら!!
 ギリギリしたけど、あのノートが誰かに見つかっても『私のじゃありません! ガルーが書きました! この子、私をオカズにしてたんです!』って話せば言い逃れできるかな……?
 (筆跡でバレるだろとは考えない・考えたくない現実逃避魂)

 そんなこんなでガルーがノートを持ち去ったので、紅龍様に私のヒミツが知られることはなかったものの……。

 「オマエ……ガルーの部屋に行かねーよナー……?(嫉妬)」

 メラメラ嫉妬しまくってる紅龍様のオーラを前に『押忍! 行くわけないっす!!』と否定するのに必死で、ノートを取りに行くどころじゃなかった。
 それに後からサングレがノートを取ってきてくれたので事なきを得た。(目を合わせようとしないサングレの態度に心が瀕死の私)

 ふぅ……! 危ないところだったわ! 次からは見つからないように気をつけて書かなきゃね!