「嬉しいなあ~。僕、一人でゴハン食べてばかりだから……!」

 と、珠天先生がいそいそとロッカーから重箱を持ってきた。
 こんなに嬉しそうな先生を置いていけるわけもなく、私と紅龍様が顔を見合わせていると、戻ってきた茨鬼君がプンスコ怒っていた。

 「ディディ様! 騙されないでください! その腹黒の手製弁当なんて、何が入っているかわかりませんから!!」
 「茨鬼君のお弁当は、苦手なタマネギを抜いておいたよ~」
 「うぐっ!!」

 茨鬼君が苦手な食べ物を暴露され、また顔を赤くしながら「ウワーン!」と飛び出して行った。
 何だったんだ……。

 茨鬼君を追いかけなくても良いのかな?
 でも珠天先生がニコニコ顔のまま、お弁当を差し出しながら言う。

 「だいじょうぶだよ。あの子、お腹が減ったら戻ってくるからね」
 そんな犬みたいに……!
 紅龍様も頷いているし、良いのかなと心配しつつも、とりあえず食事にすることにした。

 重箱弁当は、おにぎりやら卵焼きやらタコさんウィンナーがミチミチに詰まっていた。
 けど、男二人はパクパク食べて、あっと言う間に無くなりそうな勢いだ。
 紅龍様がよく食べるんだけど、珠天先生も負けず劣らず健啖家だわ……!

 ちなみに、珠天先生とは関わるのが初めてなのに、何故かよく話しかけられた。

 「ディディさん、苦手な食べ物はあるかな?」
 「ディディさんのお口に合うと良いのだけど……」
 「ディディさん、美味しそうに食べてくれるね。嬉しいよ」

 その好感度の高さに驚いていると、珠天先生は嬉しそうに頷いていた。

 「春麗のことで荒れていた紅龍クンが今、とっても幸せそうだからね。全てディディさんのお陰だよ。本当にありがとう」
 「オイ、だから元嫁のことは話題にすんなっつってんだロ」

 紅龍様は咎めながらも珠天先生を殴ったりすることはなかった。
 その様子からも、二人の長い付き合いを感じる。

 マフィアクターファンブックでは、スラムに捨てられた紅龍様と珠天先生が意気投合して二人で困難を乗り越え、その途中で春麗と出逢うとか書いてたなぁ。

 ちなみに、このどう見ても悪党には見えない珠天先生、実は前科52犯の犯罪者である。

 とても悪党には見えない……とジロジロ見てしまう。
 私の視線に気づいた珠天先生がニコッと笑顔で応えてくれたのを紅龍様が嫉妬して殴ろうとしたけど拳を止めた。

 「あ~、コイツ殴って、また人格がおかしくなっちまったら面倒だからナ~」

 そう、もともと珠天先生は生粋の悪党で、暴力だの盗みだの女性問題だの酷かったらしい。

 だけど『とあること』に激怒した紅龍様に一度、思いっきり殴られて死にかけたのが切っ掛けで善良な人格になった……という設定だった。
 (『とあること』については、ファンブックではボカされていたけど)

 そんなバカな……って感じだけど、ゲーム本編の過去回想での珠天先生は一人称が『俺様』で、女と見れば口説いて遊んで捨てるようなガチクズだったのよね~。(だから私はガルーらが子供時代の頃は、珠天先生がクズ期だから会おうとしなかった)

 それが今や『僕の力が役に立つなら~』と昼夜を問わずに、人助けしてるんだから、紅龍様の性転換ならぬ性格転換すごすぎる……。
 しかも珠天先生は紅龍様が大好きみたいで(BL的な意味ではなく)仲良しだから嬉しい!

 男同士の友情にトキメくのは全人類共通なのか(主語デカ)紅龍様と珠天先生のおっさん組で推されてたりしたのよね。
 なのに、このおっさん二人をハブった劇場版……! と血の涙を流さずにはいられない。

 そのハブられてた二人と食事とか最高かよ……! とデュフデュフしていると、珠天先生がタコさんウィンナーを差し出してきた。

 「ディディさん、これ美味しいよ。はい、あーん」

 男女の遣り取り的な意味ではなく、あくまで親が子供にするような空気感だった。
 けど、紅龍様が嫉妬して横から卵焼きを口に突っ込んできた。アガガ!!
 口いっぱいの卵焼きを咀嚼する私の横で紅龍様がドヤ顔をする。

 「珠天、テメー、トロくさいんだヨ! だから嫁に逃げられんだバーカバーカ!」
 「奥さんに逃げられたのは、前の僕の時だからよくわからないんだよね……。ねえ、紅龍クン、奥さんに逃げられたらどんな気持ちなのかなぁ?」
 「ワタシに聞くんじゃねぇヨ! ウチは嫁が逃げたんじゃねーヨ! マジで殺すゾ!!」

 あの紅龍様が言い負かされている……!
 人格がクソな時の悪事も全て今の珠天先生の所為にされてるのは気の毒な気もするけどね。

 でも珠天先生、ニッコニコで私におにぎりとか肉団子とか食べさせようとする!
 それを見た紅龍様は猫パンチみたいに珠天先生の手をパシパシ叩いていた。

 「おい! 珠天! ディディに馴れ馴れしくすんなヨ! コイツ、ワタシの女だからナ!」
 「でも僕もディディさんとお友達になりたいなぁ。あ、友達の友達だから、もう友達かな?」
 「だからワタシの女だっつってんだロ! トモダチにすんじゃねーヨ! 殺すゾ!」

 紅龍様が憤る中、珠天先生は、の~んびりと言い放った。

 「ディディさんは恩人だから、大切にしたいんだ。ありがとうね、茨鬼クンを……息子をいっぱい大事にしてくれて」

 なんて?