「はい、ディディさん、あーんしてね」

私は言われるがままに口を開ける。
口内を確認した医師は頷いてからカルテに何やら記載した。
それから穏やかな笑みを浮かべる。

「はい、お疲れ様。何処も問題ないよ」
「ありがとうございます。珠天先生」

お礼を伝えて相手を見る。
診察室の窓を背にした椅子には長身で長髪をハーフアップに結った美青年が白衣を着て座っている。
長い睫毛と綺麗な瞳は聖人そのものの美しさで、思わず見惚れてしまいそうだった。

そう、遂に……登場したのだ。

マフィアクターの攻略キャラの一人『珠天先生』が……!

珠天先生は紅龍様のマフィア専属の闇医者だけども、私とアリアが所属する福音教も、スラムの人達も分け隔てなく診察してくれる人徳者……という設定だった。

前回、紅龍様の半裸を目にして鼻血ブーして昏倒した私が運び込まれたのが珠天先生の病院だったのだ。

それにしても……。

珠天先生は通常時は温厚で優しく、慈愛に満ちている上に、乙女エロゲのキャラなだけあって、何処から見てもエロ格好いいのよねウヘヘ……。
珠天先生√、エロかったわ~。全ルートは攻略してないけど、彼シャツならぬ彼白衣展開は萌えたし~ウェヒヒ!
しかも紅龍様と同い年(45)設定なのに、全然老けて見えないの本当どういうことなの!

と見惚れていると、時計を確認した珠天先生が「おや、もうこんな時間だね」と告げる。
あっ、早く帰れってことか! と慌てて帰ろうとする。
けど先生はノンビリと立ち上がると、白衣を脱いでハンガーにかけ、歩き出した。

「ディディさん、この後、時間があるならお昼一緒にどうかな?」
「はい?」

問い返すと、先生は、ゆるふわなまま続ける。

「食事は人数が多い程、楽しいしね」

ゴクリ……。
正直、行きたい……!
年上大好きであり、紅龍様の次に推しである珠天先生の癒しオーラに包まれてみたい!
でも、また余計なことして紅龍様に『浮気カーッ!』て怒られるのも良くないので遠慮しておくことにした。

と、断る前に診察室のドアがバーン! と開く。
そしてそこには護衛の茨鬼君が立っており……でも、いつになく険しい顔をしていた。

「茨鬼君……?」
「ディディ様! 失礼します! 診察が終わったようなので、お迎えにあがりました!」

ずんずん歩いてきた茨鬼君は私と先生の間に割って入ると、先生をギロギロ睨んでいる。
こんなに態度が悪い茨鬼君は初めて見るので、どうしたのかな?
珠天先生は苦笑しながら告げた。

「茨鬼クン、こんにちは。いくら注射が怖いからって、診察中の患者さんが居る場所に突撃して悪態をついちゃダメだよ?」
「なっ……! なっ……」

私の方を見て真っ赤になる茨鬼君に珠天先生はニコニコ顔のままだった。
けど、茨鬼君は「うわーん!」と叫んで飛び出して行った。
何だったんだ……。

そして今度はドアが蹴り開けられ、紅龍様が凸ってきた。

「テメー! 珠天! ウチの茨鬼を泣かすとか、どういう了見だコラァー!」

ああ! 茨鬼君と和解した途端に子供好きおじさんモードが爆発した紅龍様の特攻が!
慌てる私に珠天先生は両手をポンと合わせると、笑顔で紅龍様に話しかけた。

「紅龍クン、こんにちは。ちゃんと夜は眠れてるかい? 昔、紅龍クンがホラー映画を観て一週間眠れなかった時、僕と春麗が手を握ってあげてたけど、今はもう大丈夫かな?」
「うぐッッ!!」

紅龍様が私を見て顔を赤くしていたけど、茨鬼君のように飛び出さずに堪えていた。

「オマエなァ! 悪気なく他人の恥ずかしい過去を暴露するの止めろヨ! あと元嫁の話題も止めロ!」
「ごめん、恥ずかしい話題だったのかい? でも春麗との出来事、君はディディさんのお陰で乗り越えられたんだから、恥ずかしくなんてな……」
「そっちの話題ちゃうわ! ホラー映画の方じゃボケナスクソが!!」
「面白かったよね。頭頂部から血がブシャーッて出てて」
「オマエ、医者やろがい! ドコ見てわろてんねん!!」

凄い勢いでボケとツッコミが炸裂してるけど、二人の仲が良い(?)のはわかった。
紅龍様が対等に話せる相手は珠天先生だけなのだ。

その証拠に、珠天先生√だと、紅龍様と珠天先生とユリの3Pがあるのよね~。
嫉妬深い紅龍様が複数プレイを許す程に、なかよぴの珠天先生……箱で推せる!
いや、箱推しといえば、マフィア組の紅龍様、ガルー、サングレ、茨鬼君になるのかな!

とか何とかブツブツ考えていると、紅龍様に頭をポンポンされた。

「つーワケで、診察終わったなら、コイツは返してもらうゾー」
所有物扱いとか心がトキメくじゃないですか! んもう♥

ポーッとしている私に珠天先生は「いいよー」と頷いた。
それから先生は楽しそうに「皆でゴハンにしようか~」と、のほほんとマイペースに続けるのだった。