最近のあまりの蒸し暑さに私はベッドでブリッジしながら唸りだす。

「暑すぎてトロけそう……。異世界なのに気候が日本っておかしくない? くっそ~」

独り言をグチグチ語っていると、窓際の椅子で洗濯物を畳んでいたアリアがふと告げた。

「……暑いなら屋上のプールを使えばいい」
「え? プールあるの?」

問い返すとアリアはコクンと頷く。

「ああ。師父が暇つぶしの為に作らせた、と言っていた。シスター・ディディになら自由に使えと言うはずだ」

そういうわけで紅龍様に電話で確認してみると『良いヨ~。好きに使えヨ~』とのことだったので早速、水着を準備して泳ごう! となったものの……。

「そういえば、私水着持ってなかったわ……」

するとアリアがスッ……と何かを差し出してきた。
けど、それは……。

よくテーマパークでやってる、人魚のコスプレ衣装だった。

流石に貝殻ビキニで人魚の尾をつけてキャッキャするのは恥ずかしいというか、女児なら喜びそうというか、私よりアリアのが女子的発想力高くない!? と思いつつ、お断りした。
(ションボリするアリアには申し訳ない)

そうしていると帰宅してきたガルーやサングレ、茨鬼君が話を聞いて水着を準備すると言ってくれたけど、嫌な予感しかしない!!

「いや、いらないから。自分で買いに行くから! 本当いらないから!!」

と、ストレートに断ったのに、持ってきたよ水着を!!

しかも『誰の持ってきた水着をシスターが気に入るか選手権』みたいなの開催し始めて、『負けた奴は全裸で街一周』とかやり始めてる!
やめろぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!
何なのよその勝っても負けても虚しいデスゲームは!!

そして予想通り、エッチな水着ばかりだったよ!! こんちくしょう!!

まずガルーがニヤニヤしながら差し出してきたやつ!! 紐! 紐やないかコレ!!
「紐じゃねぇよ。どう見ても水着だろコレ」
紐 や!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
かろうじて隠してるのはマンガとかで謎の光で隠される場所だけや!!
アリアがキタナイものを見るような眼差しをガルーに向けているし、茨鬼君は「わ~! これ、どうやって着るんですか?」とワケがわかっていない。
ムッツリスケベガルーが! アンタが全裸で街一周してきなさいよ! 

私がプリプリ怒っていると、サングレが自信満々に出してきた。
「俺のはガルーより布面積ありますよ」
うん、布面積はあるね……でも逆 バ ニ ーや!! 水着ちゃう!!
かろうじて隠してるのは前述以下略!!
サングレが経営する裏カジノの制服らしいけど、アンタ本当に汚れきったわね!!(涙)
『しすたぁ~!』とか笑顔で駆けてくる子サングレは幻覚だったんじゃないかと思って一話から読み返しちゃったわよ!!

ガルーとサングレは謎の自信に満ちた攻顔で「おい、さっさと着ろよ」「まだですかぁ~?」と急かしてくる! だから着るとか一言も言ってないやろがい!!!!

もうアリアがムッツリスケベな二人にガルガル唸りだしているし、茨鬼君は「え~っと、これもどうやって着るんですか?」とピュアな瞳で問いかけている! ダメよ茨鬼君! 逆バニーはキミには早すぎるわ!!

そんな茨鬼君が笑顔で差し出してきた。
「ディディ様! おれのは布がいっぱいありますので、お気に召していただけるかと!」
確かに布面積はあるが……。
ス ク ー ル 水 着 ですわねこれ……!!
布面積はある……あるけど、何故か今までの水着()の中で最も変態性が高く見えてしまうのは何なの????
ガルーとサングレ、アリアも謎に引いている。

「茨鬼、ヤバくねぇか……?」
「ヤバいですよね。俺も妙齢の女性にスク水を着せようとか思いませんし」
「……(ソッと目を逸らすアリア)」

先輩3人の反応に茨鬼君は戸惑っていた。

「え? え? おれ、また何かしちゃいましたか?」
しちゃいましたよ……。将来有望な隠れムッツリスケベというアピールを……と私がシワシワの顔になっていると、ドアが凄い勢いで開いた。

振り返ると紅龍様が息を切らして立っていた。

アー! また『紅龍様が怒る』→『みんなボコボコにされる』→『Fin』のパターンかー!! と、パターン入っちゃったことにグヌヌしていると、紅龍様はカッと両目を見開いて怒鳴った。

「馬鹿野郎!! ディディに着せる水着コンテストするなら、真っ先にワタシ呼べよクソがヨー!」

さすがムッツリスケベ達を20年、育てた人は違うなぁああああぁああああああ!!(遠い目)

子供の頃は清らかだったサングレ達がここまで汚れ果てる程に紅龍様の育成スキルが薄汚くて謎の感動に包まれていると、紅龍様が並べられた水着を見てドン引きしだした。

「オイ! 紐とか逆バニーとかしかないやないかい! しかもスク水、誰やねん! ガルーか! オマエみたいなヤツが以外と魂に変態性を秘めてんだよナ!」
紅龍様がガルーの頭をヅガーンと殴っていたけど(隕石が落ちたみたいな殴打音)ガルーはキレながら茨鬼君を指さした。

「ちげーよジジイ! 茨鬼だよ茨鬼!」

ガルーが指さす方向を見た紅龍様はあの有名な『恐ろしい子……!』の顔をしていたけど、茨鬼君が泣きながら理由を話しだす。

「ボス! すみません、おれ、布面積があれば良いのかと思って持ってきたら、なんかダメだったみたいで……、おれ、おれ……」
「……」

しかし、そんな茨鬼君の頭を紅龍様はナデナデしながら咳払いをした。

「……まぁ、オマエの発想自体はディディを守る為のモノだから、怒ってねーヨー」

おぉ!! 推しが茨鬼君に優しくなってる!!
エエ光景や……とスマホでパシャパシャ激写していると、紅龍様がズイズイ来た。

「で、ディディ、ワタシのチョイスも見てぇだロー?」

自信満々だけど、まさかこれより悪い水着が出てくるわけもないかと思いし、迫る推しの御尊顔に私は目をハートにして頷いた。

「はい~♥ぜひ~~♥♥」

ソッ……と差し出された水着は、何処かレトロで……ていうか……昔のおばあちゃんたちの時代にあったような、袖と裾がついた水着だった。

露出は無い! 無いけど……!!

ダッs……と言いかけて紅龍様が笑顔で立っているのに気がついた。

「……まさかワタシ以外の男に、肌を見せたいとか言わないよナ?」

嫉妬のオーラの圧が凄い!!
でもこの囚人服みたいな水着を着て泳ぐのも……とギリギリした結果……。

「紅龍さまぁ~♥私、子供の頃から人魚姫に憧れててぇ~♥」

シッポつけて、上にはTシャツの現代人魚スタイルで難を逃れたのだった。

紅龍様は「これはこれで……//////」と満足そうだったので良かったな♥

ちなみに全裸で街一周は紅龍様が『オマエらマフィアだろうがヨ! 男子高校生じゃねーんだヨ!』と止めてくれたので、事なきを得た。