ウルボラに拉致られ事件から数日が経過した。

ウルボラはあれから紅龍様達の手でコテンパンにされたらしいけど、対外的には『マフィアのボスの愛人を攫ったウルボラが粛清された』という扱いになっているんだとか。

それはともかく……。

トイレに行こうとするとガルーがついてくるし、寝る時はサングレがついてくるし、ごはん食べてる時は茨鬼君がずっと一緒だし、お風呂に入ろうとすると全員がついてこようとするしで、推し達が心配して付き纏って一人にさせてくれない有様だった!!
(アリアはケガの治療の為、隣室で寝たきり。でも這いずって来ようとするから困ったものだわ……)

そんなこんなで私は今、紅龍様が所有するマンションの一室に間借りしている。

紅龍様が家具一式まで購入してくれたので、私は身の回りのちょっとしたものを持ってくるだけで引っ越しが完了してしまったのだ! ワーイ! 推しが太っ腹~!!
しかもガルーやサングレがドレスやら装飾品やら花束やら謎に沢山くれるので、部屋が片付かない。あはは。でも皆から優しくしてもらえて嬉しいな~!

で、

ウルボラを慕う部下が報復に出ないように、私は一応雲隠れしてるってワケなのだけど……。

数日前に、ぼっこぼこにされたウルボラを見に行ったけど、あのヤロウ、アリアや茨鬼君に謝るよりも『切られて殴られて傷だらけの顔面で生きるのは辛いから殺してください!』とか抜かしやがったのよね。
ガルー達も『死にたがってるヤツ殺してもスッキリしねぇ』と、殴るだけ殴っておいて言ってるし……。

面倒くさいから私が『バッキャロォー!』って怒鳴りながら黄金の右でウルボラにビンタしたのだ。

そうして地面に倒れるウルボラ相手に私が

『このボケナス! 美しいものがドロドロに汚されてるのが最高に興奮するんでしょうが!(って薄い本で見た)アンタは、ただ美しいだけの存在から、傷を負い、それでも羽ばたこうとする白鳥へと進化しつつあるのよとかなんとか! その行程を自ら捨てるんかバカチンが! アホ! 恥を知れ! 変態! チキン!』

とか適当に罵って『殴る価値もない男だったわ……フッ』と黄金の右で殴っておきながらイイ感じで去ろうとした。(そしてドン引きしているガルー達)

そこでウルボラが奇声を上げたのだ。

『ディディ様! ありがとうございます! 確かに、囚われて甚振られても強く在るディディ様は美しかったです! クッ! 私の美への探求心が幼稚すぎました! 嗚呼! ディディ様! どうかこの愚かで醜い豚めをもっと罵ってください!』

と、目を輝かせて。
き、きんもちわるい!

それからというもの、何かに目覚めたウルボラは『福音教、辞めます! ディディ様を崇拝します!』と、何がどうしてそうなったのかわからない、迷惑すぎる進化を遂げた。
今日も街の何処かでディディ教(やめてくれ……)をはびこらせようと演説にいそしんでるみたい……。

でも彼を慕っていた女性ファンは『ウルボラ様が変態になった!』と激怒して、私に報復しようとしてるらしい。
けど、勝手に新しい扉を開いたのはウルボラで、私、悪くないよね!? と紅龍様達に問いかけると

紅龍様『いや、悪ぃーだロ』
ガルー『何で悪くねぇと思ってんだよ』
サングレ『何処に出しても恥ずかしい演説でしたし、正直、引きました』
アリア『……少々やり過ぎだったと思うが……』
茨鬼『ディディ様のお言葉で変態さんが改心したんですね!』

茨鬼君以外の皆からディスられた。

と、とにかくウルボラの信者には私を襲撃しないように彼に言い含めてもらっている間は、身の安全の為に引き籠っている!

しかし外出できないとヒマだな~と、窓際のテーブルで茨鬼君が淹れてくれたコーヒーを飲んでいると、私の足元で正座待機していた茨鬼君が、そわそわっとしだした。

「ディディ様! 退屈そうですねっ! あ、あのっ、おれ、誰か殺してきま」
「茨鬼クーーン! コーヒーには甘い物が欲しいなぁーー!」
「はーい! クッキー、焼いてまーす!」

茨鬼君が嬉しそうにクッキーが入った瓶を出してきたけど、紅龍様のこのコの扱いもどうやら変わったようだった。

組織内では『猛獣アリアが傷だらけになるような強敵に囲まれながら、ボスの愛人を無傷で救出した茨鬼SUGEEEE』という話になっているらしく、その功績から今は正式に私の護衛として傍に居る。

でも実は紅龍様も茨鬼君への長年の辛い扱いをそろそろ見直しても良い頃合いだと思っていたのは何となく伝わって来た。

だって私の推しは大の子供好きなのだ!(マフアクファンブックより)

そんな推しが茨鬼君を憎み続けるあたり、彼の愛の重さを思い知らずにはいられない……と、蕩けていると、部屋の扉が開いた。
姿を見せたのはガルーとサングレで、二人のスーツには微量の血が飛び散っている。