「う~……ん」

 私が目を覚ました時、そこはフカフカのベッドの上だった。(天蓋つきの)

 「あえ……?」

 寝ぼける頭が覚醒する前に、髪の毛を引っ張られている感覚に飛び起きる。

 (――!)

 立ち眩みがしたけど、構うものか!
 するとベッドの傍ではウルボラがうっとりした顔で私を見ていた。髪の毛に口づけながら。

 「美しい……この世にこんなに美しい女が居たとは……(スーハースーハー)」

 きっもちわるぅぅううい! 
 もう上司だから殴れないとか何とか言ってられず、平手打ちをぶちかます! 
 喰らえ! 私の黄金の右!! そして沈め! 変態!
 しかし私の腕は呆気なくウルボラに掴まれた。

 そしてそのまま押し倒された。
 このままチューでもされようもんなら頭突きで顔面破壊してやると言わんばかりに暴れる。

 「ちょっと! 離しなさいよ! 股間蹴り上げて性転換してやるわよ! この変態!」
 しかし相手は苦笑しながらも嬉しそうだ。

 「フフフフ。美しい者が抗う姿は更に美しい……。しかし、いささかお転婆が過ぎるようですね。少しお仕置きしておきましょうか」

 ウルボラが指を鳴らす。
 すると部屋の隅にあったドアが開き、騎士達に連行されたアリアが姿を見せたのだ。

 「アリア!?」

 呼びかけるも、俯いたままのアリアは口や鼻から大量に出血しており、意識も朦朧としているようだ。

 「ちょっと! その子に何したのよ!」

 私が吠えると、ウルボラは部下に命じてアリアを床に投げ捨てさせる。飛び散った血の多さに私が青ざめて震えながらアリアの名を呼ぶと、アリアは何かを繰り返していた。

 「……すま……ない」と。

 その姿に私が硬直していると、ウルボラが馴れ馴れし気に肩を抱いてきた。

 「フフ。愚かな小僧ですよ。たった一人でこの私の司教区まで追いかけてくるなんてね。もう一人いた小僧は、どこかに逃げたらしく、見当たりませんでしたが、どうせ薄汚いネズミなど野垂れ死ぬのがオチでしょう」
 「……!」

 アリアが囚われている状態では暴れても事態を悪化させるだけかもしれない。
 大人しくなった私にウルボラは満足げに嗤う。

 「そうそう、大人しくしていれば悪いようにはしませんよ。美しい花を手折る趣味は私にはありませんからね。私の望みは、絶世の美貌を誇る貴女と……いッッッたぁ!!」

 台詞の最中に絶叫するウルボラ。
 ウルボラの足先を見つめると、そこでは足首に噛みついているアリアが居た。
 アリアはウルボラの足首を噛みちぎらんばかりに犬歯を立てており、その瞳は爛々としていた。

 しかし両手足を拘束されているアリアはそれ以上の行動が出来ず、激怒したウルボラに顎を蹴り上げられて転がる。

 「アリア!」

 呼びかけると、アリアはフーフーと荒い吐息を漏らしながら、ぼそりと呟いた。

 「すま……、さない……私の……愛するディディを傷つけたら、ただでは……すまさ、ない……。こんな、汚らしい場所で……」

 ボロボロになりながらも威嚇するように告げるアリア。
 その前髪をウルボラが掴み、無理矢理に顔を起こさせると唾を吐きかけて罵倒し始める。

 「この薄汚いクソ犬がぁ! よくも美しい私の足に醜い歯型を……ッッッ! ハァハァ、い、いいでしょう! 汝の目の前で最愛のディディを私のものにしてさしあげます! この私の美しき大聖堂地下でね! そこでゆっくりと我々の情事を見ていなさい!」
 ウルボラに振り返られて、私は絶叫した。

 「ギャー! なんだかんだ言いながらエッチなことしようとしてるんじゃない! このド変態! アリアと私に触らないでよハゲ! バカ! おたんこなす!」

 私は全力で転がったり腹筋運動したり足をバタつかせたりビンタしたり必死に抵抗した。
 けど、逆にお腹を殴られて嘔吐しかけてしまったのだ。

 「ディディ!」
 アリアが叫ぶ中、私はお腹を押さえて丸くなる。

 「い、っだぁ……」
 涙が出るくらい痛い一撃に意識が飛びかけるも、その間に腕を掴まれて体を起こされた。

 「フフフ、なんと美しい……この美しい少女を私のモノに出来るなんて……」

 その時、アリアが叫んだ。

 「今だ! 茨鬼! 殺せ!」