どうやら茨鬼君は紅龍様の専用アサシンらしい。

 しかし人権は無いに等しく、ガルーやサングレにパカスカ殴られている。
 その度に「ありがとうございます!」「申し訳ありません!」と笑顔で言っている姿に私はガルーとサングレを呼び寄せて叱った。

 「年下のコに暴力を振るうとか酷すぎるでしょ! 最低よ!」

 しかしガルーもサングレもそっぽを向いて反抗的だった。
 こ、このぉ……! 昔は可愛かったのに! 
 尻でも叩いてやろうかしら!! その形の良い臀部を!!(※他意は無い)

 しかしガルーは無言だったけど、サングレは頬を膨らませて反論してきた。

 「だって……俺はシスターと離れ離れになって、心が引きちぎられそうだったんです。なのに、あのクソガキはノホホンとしてて……本当にクソ××が××××で……」
 「放送禁止の罵倒やめなさい! それでも、悪いのはあのコじゃなくて、あのコを利用した組織でしょ?」

 サングレを諭していると、アリアがトコトコ近づいてきて注釈した。

 「シスター・ディディと師父を殺そうとした組織は、とっくに壊滅させた。詳細を聞くか?」

 茨鬼君がこの扱いなのだから、どんな目に遭ったのか想像するだけで寒くなったので詳細はお断りした。ブルルッ……。
 そうしてると紅龍様が教会の入り口で振り返りながら告げた。

 「とりあえず、そのクソガキはオマエの目が覚めたら好きに甚振らせようと思って生かしておいただけだヨ。お前の為のディナーでブッ殺してやるから、今夜オマエも出席しろヨ~」

 そんな『今日、呑みに行く?』みたいなライトな感覚で公開処刑に誘われましても!!
 くそっ! これがマフィアの日常茶飯事なのか!! ヘヴィーだぜ!!
 なのに茨鬼君は私の後ろで飛び跳ねていた。

 「はい! よろしくお願いいたします! ディディ様! おれ、死ぬのって初めてで……上手く出来るかわかりませんが、精一杯、頑張りますね!」

 まず紅龍様が一発ぶちかますとか、ガルーもパイロキネシスで燃やすとか言って処刑方法を相談し始めている!
 サングレもナイフを出して嬉々としていたし、アリアも黙っているしで止める人がいない!

 「ちょゥっと待てイェエエエエエエェエエエエエエエぇえええええええい!!!!」

 私がドスの利いた声を上げると、全員が黙った。
 むしろ『どっから出た声なの?』と引いてるみたいだけど構うものか!
 私は茨鬼君の背後から肩を掴むと、彼を皆に見せながら大きな声で告げる。

 「今日ディナーなら、ステキなドレスを買いに行きたいな~! でも私、狙われたばっかりで怖いからぁ、このコにボディーガードを頼みたいんだけど、私の好きにしていいなら、いいですよね!?」

 我ながら無理のある提案だったけど、紅龍様がまた『浮気かヨ!』とキレそうなので先に「私、年上が射程範囲なので!」とキリッ顔で告げておく。
 (なんかガルーらが肩を落としてる気がするけど構わん!)

 「紅龍様が嫉妬しなくて済んで、腕が立つコなら、私専用のボディーガードにしてもいいですよね? ね?」

 私の所為で処刑パーリィーなんか開かれたらたまったもんじゃないのでオネダリすると、紅龍様は溜息まじりに許可してくれた。

 「仕方ねーナー……。でも、そいつに身辺警護は無理だと思うゾ。ワタシがソイツを傍に置いていたの、ガルーらが反抗する度に対決させる為の駒だったからナ」

 どういうことかと思っていると、茨鬼君は目を輝かせながら、また飛び跳ねていた。
 か、かわいい……!

 「ありがとうございます! ディディ様! おれ、人から期待されるのって初めてで……! 頑張ってディディ様をお守りします!」

 うんうん! いい笑顔だ! やはり若者はこうでなければいかんよ!(突然の老化)
 しかし茨鬼君は拳をバキバキ鳴らすと、嬉しそうに続ける。

 「ではディディ様! とりあえず、町の人間、全員殺してきますね!」
 「ファッ!?」
 「ディディ様が安心して外出できるように、邪魔な住人は排除すべきですから!」

 アカ――ン!! と、飛び出していこうとする茨鬼君の服を掴んで引きずられる私にガルー、サングレ、アリアが頷いていた。

 「茨鬼、少しは見所あるじゃねぇか」
 「そうですよね。シスターに被害が及んだら困りますから」
 「なかなかやるな」

 感心してないで止めろぉぉぉぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉおおおおお!! 
 と私は宙に向かって怒鳴るのだった。