しかし、聖女ユリの野郎、とにかく中の人がゴミカスだった。

 何とかアイツの幼少期の棲家を探し出し、教会まで引っ張って連れてきてもマトモに動かない!
 ガルーやサングレにちょっかいかけて媚びるのに必死で、修行しやがらない!!
 頭にきた私はユリ公をとっ捕まえて正座させて説教していた。

 「ちょっと! アンタが聖女の力を覚醒させてないと、紅龍様と、ついでにこの世界がピンチなのよ! そもそも、聖女ユリが異能を発動しないとストーリーが始まらないでしょ! オラ! 推しとくっつきたいなら働け! そして世界もついでに救え!!(ド低音)」

 ガルーらがドン引きするぐらいのドスの利いた声で脅しても、未プレイかつ『エロイベントだけ楽して見たい派』のユリは、しんどいことをやりたがらない。

 それどころか……。

 「え~? でもユリ、紅龍が推しじゃないし……。ガルーとサングレとアリアだし……。4Pルートが出来たらいいっていうか……」

 あぁぁああああああんんん?(威嚇)
 紅龍『様』! 様をつけろよデコ助野郎!!
 あとウチの清らかな子たちは4Pとかいう、酒池肉林の極みみたいなプレイはしません!!!! 一人でエアー4Pでもしてなさいよ!!

 それでも私は堪忍袋の緒がブッチブチになりながらもユリに頑張って聖女の心得を教えた。

 「いい? 聖女はこの世界で唯一無二の癒しの力を持ってるの! だから聖女って崇め奉られてるの!」
 「えー……? でも、手とかかざしても癒しの力、出ないんですけど~……」
 「当たり前でしょ! 手ぇかざしただけで癒されたら、聖女はバンザイもおちおち出来ないわよ! ちゃんと呪文があるの! 『父なる神よ、愛しき女神よ、聖なる陽の光と愛に満ち溢れた、この美しき星々に包まれた世界を永遠に守り給え』っていう……」
 「呪文、ダサくないですか~?」
 「私 が 考 え た ん じ ゃ な い わ よ ! いいからリピートアフターミー!」

 床に寝転がってブーイングしてるユリのケツを引っぱたきたい衝動を押さえつつ、私は根気よく説明した。

 説明した結果――無駄な努力だと悟った。

 もう隙さえあればガルーやらサングレやらアリアにキャピキャピ(死語)シッポ振るんですけどこのアマァァアアアアァアアアアアアアアアアアア!!(怒声)

 でも私は名案を思いついた。

 バケモンにはバケモンをぶつけんだよ!

 という理論で、ユリに首輪をつけてズルズル引っ張りながら、私は紅龍様を追いかけた。

 ユリは「ひどい……(チラチラ」とガルーらを見ながら泣いてたけど、泣きたいのは、あれだけ修行しても何の成果も得られませんでした! な私の方よ! この奇行種聖女が!

 紅龍様はユリを綱引きしてくる私の姿にビクッと驚いていた。
 しかも「ついてくんじゃねーヨ! ワタシが変態みたいじゃねーかヨ!」と怒ってたけど、命には換えられないんですよ!!

 紅龍様を狙う刺客が異能を使うと同時にユリをぶつければ、流石にアホのユリでも命惜しさに異能を発動させるだろう。
 ん? ユリの人権? ハッ(鼻で笑う)

 それで……。

 それで、もしも運命力という名のシステムが働いて、紅龍様がユリを好きになったとしても、私は構わない。

 だって、推しが消えるほど悲しいことなんてないんだもの。