紅龍様は、寂しがり屋だ。
 スラムのゴミ捨て場に産み捨てられてから、その異能を使って独りで生きてきた。
 でも時間操作というチートをもってしても、彼が求めるものは手に入らなかったのだ。

 捨て猫を拾って共に暮らしても、別れの運命は変えられなかった。
 最愛の妻の心を取り戻す為に、何度も時を巻き戻したともゲーム本編で語られていた。
 しかし、どれだけ妻とわかり合おう、語り合おうとしても、彼女の運命の相手は紅龍様の右腕であり、親友の男以外にいなかったのだ。
 どう足掻いても寝取られて脳を破壊される運命……キツすぎる……。(涙)

 しかし、愛されたい人からは愛されることはなく、自分にメリットを見い出す者しか近づいてこない。
 それも酷薄な性格の紅龍様に恐れをなし、皆が最終的に彼が消えることを願ったというっていうか、

 その公式設定が特大デバフになってるのよねぇえええええぇえええええええ!!

 鬼畜な設定の所為で、紅龍様がフレンドリーに部下に接しても怖がられっぱなしなのよね!!

 紅龍様が「キャッチボールしようゼ!」って誘っても皆『的はオマエだけどナ!』って言われると思って辞退するし、紅龍様が飲み会に誘っても皆怯えて借りてきたコネコチャンみたいになっちゃうらしい。

 ふざけんなよ! 私なら紅龍様の剛速球を全身で受け止めて魅せるし、飲み会に誘われたりなんかしちゃったら、お持ち帰りされるのを期待して勝負下着と良い匂いのするボディーソープとかキメてくから! 誘われたことないけど!


 私は教会の台所でノンアルビールを吞みながら、ちびっこ相手にクダを巻いていた。
 ガルーが「もうそのへんにしておけよ」と水を出してきたけど、これが呑まずにやってられっか!(ノンアルだけど)

 「紅龍様の人間不信はゲームの設定が由縁だし、私が特に何もしてなくても街の人からビビられるのも悪女設定の所為だし、きわめつけはユリ公よ! 聖女とかいう設定の所為で、中の人がゴミカスでも何してもチヤホヤされてるじゃない! キーッ! 悔しいーッッ!」

 私がハンカチを噛みしめながら文句を垂れ流していると、アリアがさり気なくビールとファン夕を交換しながら提案してきた。(おいやめろ)

 「よくわからないが、あの紅龍が、かなしまなければ、シスターは嬉しいのか」

 真摯な瞳で問われ、私は思案する。
 そして正直に本音を告げた。

 「そうね……。推しが曇ってる姿は興奮するけど、でもやっぱり最終的にはハッピーエンドの向こう側にいてもらいたいもの……」

 奥さんと親友を一度に失って、雨の中、号泣する紅龍様のスチルは脱いでないのにエロすぎだった。
 ファンの間では『紅龍様は着エロが基本』『濡れ透けスチルへのスタッフの本気度』『脱いだ紅龍様なんてオマケです。偉い人にはそれがわからんのですよ』なんて言われてた。(同意するけど脱いだ紅龍様もエロい派)

 私の発言にチビッコ達は「ウヘェア……」みたいな顔をしていた気がするけど、サングレがスカートを引っ張って提案してきた。

 「あ、あのっ、しすたぁ! それじゃあ、あのおぢさんがハッピーエンドになるように、がんばろうよ! ぼくがしってるシスターは、どんなときでもあきらめたりしなかったよ! ぼくも、いっぱいおてつだいするし!」
 「サングレ~~!!」

 励ましが身に染みて、サングレを抱きしめる。
 そ、そうよね! いつでも前向きなのが私の長所だったわ!
 こうなったら、聖女ユリの野郎の首にナワつけてでも、アイツを聖女たらしめんとするしかない! 紅龍様が分解されかけたら、オマエが命かけて解除しろと……!

 こうして私による聖女ユリ調教計画が始まったのだった。