その後ガルーが子供らしく泣けた日から、彼のパイロキネシスの特訓は始まった。

 感情が昂ったり、精神が安定しないと無意識にでも炎が出てしまうからと、しばらくガルーは浴槽に水を張り、ずっとそこに浸かるようになっていた。

 流石に風邪を引くからと止めたけど、お湯にするぐらいでしか譲歩してくれないので、私はまた枕や毛布を浴室に持ち込んで、ガルーを一人にしないように付き添った。

 サングレやアリアもついてきて、皆でバスルームに泊まるようになった。

 そんな私にガルーは「おせっかい女」と言いつつも、何処か嬉しそうだ。

 サングレやアリアが寝静まってから、ガルーが呼びかけてきた。

 「……おい、おせっかい女」
 「誰がおせっかい女よ。シスター・ディディ様だって言ってるでしょ!」

 サングレ達を起こさないように小声で反論すると、ガルーが「……ぐあいは、どうなんだよ」と、何度も何度も尋ねてきた言葉を口にした。

 自分の暴走に巻き込んでしまったと、ガルーはあれから数日が経過しても気にしているみたいだ。

 ふっ、私を誰だと思ってるのよ! アンタらに銃殺・刺殺・焼殺されまくった女よ!

 幸いなことにガルーの当時のパイロキネシスは彼のパニックが影響したのか、光と音と僅かな熱だけが先行して暴発していたみたいで、派手に燃え上がったように見えても彼にも私にも大した被害はなかった。

 だから私は力こぶを作るようなポーズで笑顔を見せた。

 「アンタのヤワな火ぐらいで、このディディ様がどうにかなるわけないでしょ! 今度、炎を出した時にはマシュマロでも焼いてやるわよ!」

 そう言いつつ、軽い火傷箇所も示す。

 「それに紅龍様に特別な軟膏も貰って痕も残らないって言われてるんだし! 仮に痕が残ったとしても、私の魅力は薄れないのよ! そもそも子供が気に病んで凹んでるんじゃないわよ! 笑ってなさい!」

 心配しないように告げると、ガルーは「くくっ」と含み笑いを漏らした。

 「……相変わらず、おもしれー女」

 そこでガルーが浴槽で座り直し、背中越しに表情を見せる。

 「紅龍、紅龍って、オレのまえで、ほかの男のなまえばっか呼びやがって。でも……」


 ――いつか、オレのなまえしか呼べないくらい、夢中にさせてやるよ――


 低く告げられたセリフは、幼子とは思えないほどに大人びていて……。
 その言葉に、一瞬、大人のガルーの姿が見えた気がしてドキッとした。
 あの低くて、渋い声の……CV・バチカン砲で←ガルーの声優さん源氏名

 「って、アンタ本当に八歳児!? 人生、二周目じゃないわよね!?」

 私がガルーの背中をバシバシ叩くと、本人はからからと笑っていた。

 こうしてガルーは人生最大の悲劇を周りの助けを借りつつ、少しづつ乗り越えてゆくのだった。